『♬残酷な天使のテーゼ』から学ぶ著作権と生成AIの関係性
著作権に起因する自然言語処理(NLP)や大規模言語モデル(LLM)の生成AIとしての重要性とリスク
意外と著作権とは何かが理解できていない人が多いので、ここでは日本国における著作権について解説します。著作権を理解する方法には、経産省、特許庁、文化庁、著作権協会の類、著作権を専門分野としている弁護士の解説を調べるなど様々なアプローチがあります。
日本国内の著作権の定義を知りたければ、著作権法を読むのが一番確実です。それにも関わらず、上記のような様々な専門家が著作権について解説しているのは、著作権法の解釈には大きな幅があり、また、著作権から得られる利益や、著作権侵害責任などは、全てのケースによって、まったく異なるからです。
本稿で日本の著作権について解説するのは、生成AIに関する著作権問題を理解するためには、著作権法に定義してある著作者の権利と、著作物の定義が把握できていないと話しすら成り立たないからです。
著作権について本格的に解説すると、著作権の専門書を100冊書いても書き足らないくらいの情報量がありますので、本稿では以下の六点に限定して、且つ、文書の著作権が最も重要であるという点について解説します。
映画やアニメやコミックのように複数の著作権から成り立っている作品がヒットした要因を考えると、『原作者は原作が良かったからヒットした』、『キャラクターデザイナーはキャラクターデザインが良かったからヒットした』、『作詞・作曲家や歌手は主題歌が良かったからヒットした』、『プロモーターはプロモーション手法が優れていたからヒットした』と、それぞれの仕事の価値を主張したくなる心情はわかります。
筆者はエヴァンゲリオンの原作者や制作会社の経営者は良く知っていますが、エヴァンゲリオンのストーリーやキャラクターには全く興味がありません。ところが、テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』OP(オタク言葉でオープニング曲という意味)の『♬残酷な天使のテーゼ』だけは、カラオケで歌うほどのファンです。
もっと突っ込んだ話をすると、OPすらどうでも良くて『残酷な天使のテーゼ』というタイトルだけでも良いほどです。倫理学は哲学の構成要素なので、筆者のような哲学かぶれには『テーゼ』だけでも良かったかもしれません。
このように著作権の価値は、読者や視聴者の価値観まで考慮すると、著作権の重みに優劣をつけることに対して、異論を唱える方も多いと思います。一方で、AI無知倫理学会では著作権を考えるうえでは、言語の著作物が最も重要だと考えており、これが自然言語処理(NLP)について論じることが多い理由の一つです。
以下に著作権において、文書の著作権が他の著作権よりも重要であると論じる前提条件を示します。
一、文書の著作権(テキストコンテンツ)
文章は法律、国際条約、契約書、書籍、記事など著作権の基本となる要素です。これには、オリジナルな発想や情報の表現方法、独自の文章構成や説明手法などが含まれます。このレベルの著作権が最も重要であるとの前提は、多くの文化や国際的な法律の文脈で一般的に認められています。
二、映画や演劇の原作・シナリオ(テキストコンテンツ)
映画や演劇の製作において、原作やシナリオはその核となる要素です。これらのストーリー展開、キャラクター設計、セリフなどの著作権は、後続のプロダクション活動の基盤となるため、特に重要視されることが多いです。
三、映像・音声コンテンツ
映画、テレビ番組、音楽、ポッドキャストなどの視覚や聴覚に関連する著作物も重要です。これらの作品には、演技、監督、音楽、撮影、編集など、多くの要素が絡み合っています。それぞれの要素には独自の著作権が存在するため、それらの権利関係を明確にする必要があります。
四、デザインやアートワーク
イラスト、グラフィックデザイン、建築設計などの視覚的な表現も、独自の創作性が求められるため、著作権の対象となります。
五、ソフトウェアやデジタルコンテンツ
コンピュータプログラムやアプリ、デジタルアートなど、デジタル技術を基盤とした著作物も、その独自性や機能性に基づく著作権が存在します。
六、実用的な著作物
ユーザーマニュアル、教育資料、ガイドブックなど、実用的な目的を持った著作物も著作権の保護を受けることができます。
本稿で以上の六項目に分けて著作権に重みを付けて、分類してみたのは、日本国内におけるAI倫理問題や、AIガイドラインや、AI戦略会議の類の検討には、これらの視点が欠落しているからです。
著作権に優先度や重みをつけて検証することの重要性については、別稿でそれぞれ論じます。
欧州AI規則の解説については、以下のPwCの資料は、図表入りで、しかも、意訳しているので分かり易いですが、実務的なものではありません。PwCはこれらの概念をクライアントの実務にあわせて、文書化しコンサルティング料などを課金するはずなので、漠然とイメージだけ伝わればよいのでしょう。
許容できないAIに関する禁止事項(第5条)への違反に対して4,000万ユーロまたは全世界売上高の7%の高い方が課せられるという、事業規模によっては企業の存続が掛かるほどの大きな罰則の説明資料であるにも関わらず、誤訳や誤字も目立ちます。この資料は実務用ではなく、PwCの宣伝用資料なので、それほど気にしなくても良いのかも知れませんが、政策実務・決定者や、AIシステムの開発や、AIサービスを提供する事業者が、この程度の資料を参考にして方針を立てていたのでは、後々大問題になるでしょう。
そこでPwCの宣伝資料は無視して、欧州AI規則の原文を参照してみると、以下のように“subliminal techniques”という単語が使ってあります。関連文書を読むと“subliminal techniques”の定義もしてあります。
Article 5(1)(a) using subliminal techniques in a manner that causes or is likely to cause physical or psychological harm;
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52021PC0206
サブリミナル(subliminal)効果とは人々の意識の下で、ほとんど意識されない方法で、情報やメッセージを伝えることを意味します。サブリミナル効果に関する興味や議論は長い間続いており、特に広告やマーケティングの分野でのその使用に関して多くの議論がなされてきました。
サブリミナル効果の歴史
1950年代:サブリミナル広告のコンセプトが広く知られるようになったのは、1957年にジェームズ・ヴィカリという人物が、映画館での上映中にコカコーラやポップコーンに関するメッセージを0.03秒ごとに挿入し、これによって観客の間でのコカコーラとポップコーンの購入が増加したと主張したことが切っ掛けとなっています。しかし、この実験の結果は再現されず、多くの専門家から批判されました。
このような批判を無視してサブリミナル効果を大々的に宣伝したのが、学研のオカルト雑誌『ムー』と、週刊少年マガジンの『MMR マガジンミステリー調査班』です。
なぜ、学研のムーがnoteから撤退してしまったのか、noteの経営陣はその原因を真摯に検討した方が良いでしょう。
1970年代:サブリミナルメッセージがロック音楽の中で使用されているという噂が流れ、一部の人々はこれが若者の行動に悪影響を及ぼしていると主張しました。
科学的証拠
効果の限定性:サブリミナルメッセージが一部の短期的な行動や認知に影響を及ぼす可能性は示唆されていますが、長期的な行動や意識の変化を引き起こすという証拠は限られています。
研究の混在:サブリミナルメッセージに関する研究結果は一貫していません。一部の研究はわずかな効果を示していますが、他の多くの研究では効果を見いだせていません。
科学的な根拠も証拠もないものを禁じられているというところは、異議を申し立てるのには格好のポイントであるにもかかわらず、日本のAIガイドラインを制定している団体や、AI戦略会議では、このような根本的な議論が抜けています。
OpenAI社の初期のプロンプトエンジニアリングに関する説明が間違っていたため、いまだに多くの日本人が、プロンプトエンジニアリングのことを誤解していますが、プロンプトエンジニアリングの本来の意味は、パソコンやスマホの操作性や、広告の表示方法の最適化手法も含まれており、これらの手法の中にはサブリミナル手法とみなされる可能性が高いものも含まれています。
放送分野ではポケモンショック問題や、サブリミナル効果問題の対策ができていますが、これらの問題があることすら認識していないAIベンチャー企業が大半でしょう。 このようなAIベンチャー企業は、一時的にはヒット商品をリリースできても、欧州AI規則違反で会社が潰されてお終いになることが容易に想像できます。
つづく…
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