鉱物資源の秘密:地質学と宝石学の世界(12)アクアマリン I
この記事では地質学者ではなく、宝石商としての視点から、3月の誕生石であるアクアマリンについて説明します。
日本でバックライトテーブルを使った原石選別作業を一日中経験した人は少ないでしょう。初めて宝石の原石を扱う方には、テーブル一面に広げた原石が美しくて楽しく感じられるかも知れませんが、これを職業として行うのはかなりの苦痛です。
原石の選別作業はバックライトテーブル上に原石を広げ、裸眼で色、形、大きさ、クラックの入り方に基づいてグレード分けすることから始めます。私はグレードを1から10に分け、トップ10%に入らないものはカットする予定がないため、 #モザンビーク 現地の #宝石バイヤー に販売します。この初期段階は比較的簡単ですが、次のステップは徐々に難しくなります。
トップ10%に選ばれた #原石 は、ゴーグル型 #ルーペ や拡大率の低いヘッドルーペを使用してさらに選別し、最終的にトップ1%まで絞り込みます。100kgの原石から1kgのトップ1%を選出する作業だけでもかなり眼が痛くなりますが、その後の作業が特に困難です。
宝石の品質は『 #アイクリーン (裸眼で透明)』と『 #ルーペクリーン (ルーペで見ても透明)』に分けられます。トップ1%の石を選ぶ際には、10倍の宝石専用光学ルーペを使用して、ルーペクリーンに仕上がる原石をどの角度でどの形にカットするかを決定します。しかし、高輝度LED、フルスペクトラム蛍光灯、ハロゲンランプの下での作業は、眼に大きな負担をかけ、10分で眼の疲れを感じ始めます。30分続けると眼が痛くなり、1時間以上の作業はほぼ不可能です。半日この作業を続けると、拷問に等しい状態になります。透明度の高い #アクアマリン 原石の選別は、眼の疲労が激しく、長時間作業すると失明しそうな感じです。モザンビーク現地での選別作業を一週間続けると、宝石を見ること自体が嫌になります。まるで #スタンリー・キューブリック 監督の #時計じかけのオレンジ のような状態になります。
より厳選した原石は、モザンビーク政府指定の機関で鑑定書を取得した後、輸出手続きを行います。その後、原石は #ドーハ経由 で #バンコク の宝石加工業者に持ち込み、カットの打ち合わせを行いますが、これも眼に負担のかかる作業です。
日本には宝石の原石をカットできる人は殆どいません。世界レベルで活躍している貴石の細工師はいますが、貴石の加工と宝石のカットは全く異なる技術です。日本でカットした宝石をバンコクに持ち込んだら『どこの素人がカットしたの?』と笑われた経験があります。私がタイで依頼している加工場には、カット職人が3,000人以上おり、各々が特定の石を得意としています。タイには数千人規模の宝石カット工場が複数存在し、宝石の研磨と貿易が重要な産業となっています。
タイの有名なカット職人たちは何十年も毎日カットを行っていますが、日本の宝石カット職人は週に1個カットするかどうかです。職人数が少ない上に、宝石カットの仕事自体がほとんど存在しないため、日本の宝石加工業はタイには遠く及ばないのが現状です。
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