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2023年4月の記事一覧

こころの色、エクリュ。映画『ひとりぼっちじゃない』について

こころの色、エクリュ。映画『ひとりぼっちじゃない』について

 ストイックではなく、すといっく。
 ポップではなく、ぽっぷ。
 プラトニックではなく、ぷらとにっく。
 エロティックではなく、えろてぃっく。
 ファムファタルではなく、ふぁむふぁたる。
 フラットではなく、ふらっと。

 この映画から想起することばを、ひらがなにするとしっくりくる。作品の感触が、ひらがななのだ。だからというわけではないだろうが、タイトルは『ひとりぼっちじゃない』。全部ひらがな。そ

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沈黙と饒舌がマリアージュする映画『ソウル・オブ・ワイン』

沈黙と饒舌がマリアージュする映画『ソウル・オブ・ワイン』

「私たちは“時”を飲んでいるんだよ」
 ワイン醸造学の権威として知られるジャック・ピュイゼは、ワインの深淵をそう口にする。
 映画『ソウル・オブ・ワイン』は、ブルゴーニュ地方の醸造家を中心に、ワインに関わる人々の姿を、あるときは饒舌に、あるときは寡黙に映し出すポエティックなドキュメンタリーだ。
 ゆっくりと馬が進んでいく畑の光景を挿入しながらこの作品が紡ぐのは、ワイン造りにいかに膨大な手間がかけら

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半分と半分。川村元気の映画『百花』について。

半分と半分。川村元気の映画『百花』について。

 川村元気は小説にしかできないこと、映画にしかできないことがわかっていて、その熟考の果てに、本作はあるのだと思う。

 ワンシーン=ワンカットという、映画を志す者であれば誰もが浮き足立つしかない戦略的手法を選びながら、作品そのものが浮き足立つ瞬間は、ない。うっかりすると、この映画がワンシーン=ワンカット方式で撮影されていたことを忘れてしまうほど、『百花』は『百花』だけの時間を生きている。

 もち

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