- 運営しているクリエイター
記事一覧
偶発性と統合性の奇蹟的な融合。コーネリアス「MIND TRAIN」
コーネリアス
「MIND TRAIN」
コーネリアスが9分もの大曲「MIND TRAIN」をシングル配信した。全3楽章とも言うべき音楽構成には、クラシックのごとき端正なうねりがある。しかも音楽史を遡るような、進化=退化が渾然一体化した揺るぎない疾走。全盛期のボアダムズやジェフ・ミルズらの威風堂々ぶりを想起させつつ、全く新しい音楽を生み落としている。
デジタルで強靭なビートの反復。そこにシャー
映画は音楽のように。音楽は映画のように。スカート「波のない夏feat.adieu」
「波のない夏feat.adieu」
スカート
映画『水深ゼロメートルから』の音楽を手がけたスカート(澤部渡)が、adieu(上白石萌歌)を客演に招き、作品のエンディングを飾った秀逸な主題歌。
2019年、当時高校生だった中田夢花が母校、徳島市立高校演劇部のために書き下ろした渾身の脚本。山下敦弘監督によるこの映画化においても、中田がシナリオを手がけている。
4人の女子高校生たちが、学校のプー
音楽は、ひとを敬虔にする。Sweet William『SONORAS』
『SONORAS』
Sweet William
1990年生まれのSweet Williamは、愛知県出身の日本人ビートメーカー。ヒップホップの背景で鳴る音楽を制作するのが、ビートメーカーだが、純粋に音楽家と形容したほうがいいかもしれない。ソロアルバムとしては第3作となる彼の全13曲を聴いて、あらためてそう思う。
Sweet Williamの音楽には、クラシックの端正さがあり、シャンソンの悲
堕天使の声が、可憐なる絶景を見せる。King Gnu「IKAROS」
King Gnu
『THE GREATEST UNKOWN』
堕天使にもし声があるとすれば、こんな声かもしれない。
King Gnuのアルバム第4作に収録された「IKAROS」。メインボーカル井口理の声を耳にして思った。元・天使、現・人間。天上の名残と下界の安堵が融けあうと、このような質量の肉声になるのではないか。翼の飛翔と折れた落下が共にある声。現世を超越した浮遊のテクスチャ。速くも遅くもな
tha BOSS、 Mummy-D、そして坂本龍一。
tha BOSS
『IN THE NAME OF HIPHOP Ⅱ』
THA BLUE HERBのtha BOSSのソロ第2作。
収録曲「STARTING OVER feat.Mummy-D」が大きな話題を呼んでいる。ヒップホップ好きの間では知られたエピソードだが、tha BOSSとRHYMESTERのMummy-Dは、ある勘違いから、グループのアルバム曲で、互いを罵り合った。その両者が共作
明かりあるところで、吐露をする。indigo la End『哀愁演劇』
『哀愁演劇』
indigo la End
川谷絵音率いるindigo la Endの8作目。前作『夜行秘密』が夜のアルバムだとすれば、これは蝋燭の灯のようなアルバム。
タイトルに露わになっているように、川谷は自身のソングライティングに宿る哀愁性に自覚的に取り組み、さらに批評性を付け加えている。演劇というモチーフがそれだ。
「芝居」「パロディ」「邦画」という身も蓋もない曲名にはシニカルな自虐で
瞼の裏を洗う音、声、言葉。Cornelius『夢中夢』
Cornelius
『夢中夢』
まず、構成に唸る。歌を二曲、インストを一曲。このセットを三つ。そして、最後に歌。
アルバムタイトルに示唆されている円環が結ばれる。
小山田圭吾の鼻にかかったチャイルディッシュな声が、丁寧にほどかれ配置された音と隣り合わせにあることで、一瞬、どちらが歌で、どちらがインストなのか、わからなくなる。
音は、自ら歌っている。鳥がさえずるように。水が流れるように。風
岩田剛典的なめらかさについて。あるいは「モノクロの世界」
岩田剛典「モノクロの世界」は、未練のうたである。
愛しい相手は死別した可能性も僅かにあるが、ここではお付き合いが終焉を迎えたと考えたい。そのほうがしっくりくる。うたには「あなた」が立ち去った後のニュアンスがあるし、岩田剛典もそのようにうたっている。
「あなた」のいない世界。それが「モノクロの世界」である。
つまり主人公は「あなた」と出逢う前も「モノクロの世界」を生きていた。そして、い
孤立の安堵、自立の不屈。OMSB『ALONE LIVE』
OMSB
『ALONE LIVE』
サードアルバム『ALONE』発売直後、2022年6月に行われたワンマンライブの模様を収録。稀代のラッパー、OMSBの質量漲るパフォーマンス全23曲は、人間が響かせる声に没入する歓びが横溢する。
OMSBのラップには覇気があるが、マッチョな勇ましさではなく、後ろ向きに駆け上がる情緒がある。たびたび自己承認欲求を反省するリリックはけれども自虐の陶酔に閉じるこ
スチャダラパーのディスタンス。
スチャダラパー
『シン・スチャダラ大作戦』
日本語ラップ黎明期、ヒップホップを我が国独自のサブカルチャー周辺と接続した功績は後世に語るべき伝説。かつて「文学」と呼ばれたその楽曲世界は、日常から普遍を掴みとり、その普遍をまた日常に循環させる所作がひたすらみずみずしく「最新の和歌」と言うべき古典性がみなぎっている。あのスチャダラパーがもうデビュー30年だという。
ファーストアルバムのタイトルに「シン