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三鷹歌農書 1321-1340

魁の紅妃は花の盛りなれば早雄綻ぶに死に物ぐるひ
三鷹歌農書(一三ニ一)
シンバルをしづかに鳴らす早雄を摘みて紅妃の初花に当て
三鷹歌農書(一三ニニ)
薔薇いちりん朝陽をあびて雄蕊よりその影長く花弁に揺らぐ
三鷹歌農書(一三ニ三)
耕運機かけて黒つち掘り起こす飛行機雲の伸びてゆくやう
三鷹歌農書(一三ニ四)
補助翼(エルロン)も生え始めたるタネ芋のコガネセンガン発進しさう
三鷹歌農書(一三ニ五)
赤き爪ムラサキの爪あつまりて空(くう)摑み取るぼうたんと知れ
三鷹歌農書(一三ニ六)
大麦の穂の熟れ始め静止せるままに花火の乱れ飛ぶさま
三鷹歌農書(一三ニ七)
トウモロコシだからトウモロコシだから一本残し他は切り捨つ
三鷹歌農書(一三ニ八)
ぼうたんの蕾の玉がポンと爆ぜ一日咲きて散りゆく暑さ
三鷹歌農書(一三ニ九)
太陽が小さき太陽うみおとす牡丹の蕊を出るハナムグリ
三鷹歌農書(一三三○)
竹割りてトックリイモのベッドとしふかふか土をこんもりと盛る
三鷹歌農書(一三三一)
菜の花におぼるるアゲハわが目にも溺れて飽かぬ春のあかるさ
三鷹歌農書(一三三ニ)
シイタケ二つ同じ穴から出てしまひ共倒れしていただくことに
三鷹歌農書(一三三三)
サトイモの使ひ忘れに詫びを入れタイに招待カノムモーゲン
三鷹歌農書(一三三四)
ソラマメの空打つ莢の打ち終へてなにか宿しし重さに垂るる
三鷹歌農書(一三三五)
斥候の双葉ふり捨て噴き出づる春だいこんの本葉の息吹
三鷹歌農書(一三三六)
蓮鉢の浮き葉のすき間突破せしは立ち葉にあらず慈姑の出たり
三鷹歌農書(一三三七)
アーティチョークの蕾を守る天道虫(てんたう)の十頭ほどを確認したり
三鷹歌農書(一三三八)
発芽率一割に満たぬムラサキのトーテムポールのごとき茎立ち
三鷹歌農書(一三三九)
ホップの芽萌え立つ真中狙ひ打ちだらうヤブガラシが紛れ込む
三鷹歌農書(一三四○)


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