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三鷹歌農書 2581-2600(ムラサキ)

豪雨にも高温にも耐へしムラサキの今年最後の種を手に乗す
三鷹歌農書(二五八一)
ずらし十文字のかたち紛れなくムラサキ生まれけり零れ種より
三鷹歌農書(二五八二)
おやゆびの腹を這はせてたしかむるムラサキの葉の産毛のひかり
三鷹歌農書(二五八三)
地面から10センチ上で切り戻しムラサキを来年に向かはす
三鷹歌農書(二五八四)
生きる気はないんでとばかり軽く引くのみにムラサキ抜かるるもあり
三鷹歌農書(二五八五)
ムラサキの根は土のもの地上部と地中部おなじ長さと知るに
三鷹歌農書(二五八六)
根に溜めし色素はなべて来年の芽へとムラサキ命を与ふ
三鷹歌農書(二五八七)
色抜くは一年目の根からのみなるを後は種取り用のムラサキ
三鷹歌農書(二五八八)
水洗ひあたはぬ根つこムラサキの土を刷毛もてやさしくおとす
三鷹歌農書(二五八九)
手に乗せて小鳥に餌をやるやうにムラサキの根の土をはたきぬ
三鷹歌農書(二五九○)
おのづから囁き声のお喋りに刷毛を手に根の土取る作業
三鷹歌農書(二五九一)
ゴボウともクワガタムシともその匂ひムラサキの根のあらはになりて
三鷹歌農書(二五九二)
サツマイモと同じ色へとムラサキの主根の土のおほかた落ちて
三鷹歌農書(二五九三)
ムラサキの素裸の根に陽の差せばほむらふふめるごとくになりぬ
三鷹歌農書(二五九四)
ちぎれたるヒゲ根は拾ひ木の箱へサフランにもまさるムラサキなれば
三鷹歌農書(二五九五)
野生でも園芸種でもなく人の手を借りる蚕のやうなムラサキ
三鷹歌農書(二五九六)
しんぶんの畳紙(たたう)に仕舞ふお姫さま干しムラサキの全(また)き姿や
三鷹歌農書(二五九七)
黝(あをぐろ)き主根となりぬムラサキの土取りしより十日ほど経ち
三鷹歌農書(二五九八)
ムラサキを払ふ獣の毛の刷毛にはつかに移る紫の粉
三鷹歌農書(二五九九)
来年の新芽も干されムラサキの根もと兜の脇立ふたつ
三鷹歌農書(二六○○)


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