実は重要、「中耕と土寄せ」 整然と並ぶ野菜は美しい
午前5時55分、目覚ましが鳴り始める。「ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ」。外は暗い。体が起きてくれない。条件反射で目覚まし時計の頭を叩く。また、5分後に鳴りだす。それを繰り返し、6時半ごろ、ゴソゴソとベッドを後にする。作業着に着替え、外に出る。やっと東の空が白み始めている。
平日の農作業 朝の1時間半
立冬を過ぎ、日没も早くなった。午後5時には薄暗い。平日の農作業は、出勤前の1時間半に限られる。まずは、スマホでハラペーニョの注文が入っていないかをチェック。注文があれば、収穫・荷造りし、出勤前に発送するのが最優先となる。この日は、注文がなかった。マルチを敷いていない露地栽培のキャベツ、ブロッコリーの「中耕、追肥、土寄せ」をすることに。
収穫にたどり着けない悪循環
農業を始めた当初、この作業を軽視していた。種まき・定植後、追肥・水やりはするのだが、なんだか出来が悪い。原因は、「中耕、土寄せ」をしていなかったから、と気付く。
トラクターで耕し、畝を作り、種まき・定植したばかりの土はふかふかでサラサラ。これが雨に打たれると、次第に固くなっていく。それでも、たくましい雑草は芽を出す。放置すると、野菜は育たず、雑草が優勢になる。害虫や病気も増え、収穫にたどり着けないという悪循環を生んでいた。
最後は手作業、両手で土寄せ
中耕には、三角両刃鍬(三角ホー)と呼ばれる、先のとがった三角形の鍬が適している。先っぽで、野菜の合間を軽く耕していく。畝のサイドは、土の表面を薄く削るようにしながら、土を野菜の根元に寄せていく。
追肥をして、株元への土寄せ。葉や根を傷めないよう、最後は手作業。肥料と土を混ぜ合わせながら、株が倒れないように両手で土を寄せる。
大嫌いだった「アヒル歩き」再び
高校生の頃、部活動で「アヒル歩き」と呼ばれるトレーニングをさせられた。しゃがんだまま、歩くのだ。大学生のOBがやってきて、「足腰を鍛えるんだ」と、これをやらされた。大嫌いなトレーニングだった。土寄せ作業はまさにこの姿勢。40年の時を経て、同じようなトレーニングをするとは…。
「中耕、土寄せ」は、野菜栽培では重要な意味を持つ。
雨でたたかれて固くなった土をほぐすことで、土の中に空気を供給し、水分も吸収しやすくする。
肥料を土と混ぜ合わせることで、根から吸収しやすくする。
雑草の除去。
根の露出と株が倒れるのを防ぐ。
整然と並ぶ野菜たちは美しい
単純作業を繰り返しつつ、野菜の状況を一つ一つ確認する。害虫がいないか、葉裏に卵を産み付けていないか、病気の兆候はないか…。一列を終え、やっと立ち上がり、腰を伸ばす。列の全体を見渡すと、倒れかけていた株がまっすぐに立ち上がり、野菜たちが整然と並ぶ。美しい。明日は雨。また、一段と成長するのが楽しみになってくる。
(あぐりげんき)