鍬で耕す 昔の人はすごかった
甘く見ていた。たかが20㎡。ここ10年、使っていなかった「みつ鍬(三本鍬)」を手に、里芋の植え付けに向かった。耕し始めて10分で後悔した。梅雨前の蒸し暑さ。土も固い。額の汗が滝のように流れ落ちる。管理機を取りに帰ろうか、とも考えたが、乗り掛かった舟。後戻りを躊躇してしまった。
嗚呼、勘違い 里芋の植え付け時期
里芋の植え付けが遅れていた。この地域のお年寄りたちは「田芋(たいも)」と呼ぶ。「田芋は田植え頃」と勝手に思い込んでいた。芒種を迎え、周囲の田んぼには水が張られ、田植えが始まった。ところが、伯母の畑では、里芋がもう20センチくらいの葉を広げているではないか。勘違いだった。5月上旬には植えなければならなかったのに…。
3週間前、管理機を使って畝立てはしていた。しかし、他の作物に手を取られ、自家用の里芋は後回しになっていた。耕耘後、日数が経ってしまった土は、雨が当たり、また固くなる。水上に位置するため、水がかりが良く、里芋には適している。ただ、ふかふかの土とはいい難い。梅雨に入ってしまうと、ぬかるんで、植え付けどころではなくなる場所だ。
甘く見た「たかが20㎡」
幅95センチ、長さ8メートルほどの畝を2本。一度耕しているから大丈夫だろう、と高をくくっていた。普段、すき込み作業はトラクターか、狭い所なら管理機を使っている。もう何十年も前に買っただろう「みつ鍬」は、倉庫の鍬置き場につるされたまま、使われる機会はめっきり減っていた。
鍬使い、慣れているはずが…
大学時代、合気道部に所属し、木刀を振る稽古もした。鍬の使い方と共通する部分がある。力任せではなく、左手を支点にして、右手で鍬を持ち上げ、先端の重さを利用して地面を耕していく。決して力業ではない。
若いころ、ジャガイモ掘りなどに駆り出され、鍬の使い方には慣れているはずだった。しかし、思った以上に土が固い。鍬の先端が地面に刺さり、てこの原理で鍬を起こすと、大きい塊のまま天地がひっくり返るだけ。作物の生育に肝心の「団粒構造」とは程遠い。鍬先の裏側を使って、塊を砕き、また、鍬を振るう。その繰り返し。
機械での省力化を実感
鍬で田畑を耕す姿は、昭和初期の写真などでよく見る農村の原風景。昔の人は、この作業を延々と続けていた。10aの田畑ならこの50倍。気が遠くなる。トラクターや管理機。「耕す」という作業が、機械によっていかに省力化されていたかを身をもって感じる。
1時間かけて、何とか畝を作り直した。左の手のひらに豆が。煙草を持つ手も心なしか震えている。ホッと一息。ここからの作業は慣れている。種芋を植え付け、マルチシートを張る。芽が出て、シートを突くようになれば、穴を開けてやればいい。秋の芋炊きに間に合うだろうか。
翌朝、ポツリポツリと降り出した雨が、乾いた畑を湿らせた。隣の畑で、絹糸を垂らしたスイートコーンが、恵みの雨に喉を鳴らしているようだ。6月9日、四国地方の梅雨入りが発表された。
(あぐりげんき)