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熟れすぎた闇

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いかなる確かな約束も無く、日々、陽は沈み続ける。
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眠れなかったから、物語でも紡ぎますか

年末も近づいてきたね。まだ日にちはあるけれど、靴の中に入った砂つぶよりは気になる。正社員を辞めてからいろんな短期のバイトをしてきたけど、年末はやはりお歳暮だね。売り子じゃなくて、冷蔵室で箱詰めして出荷するバイト。毎年毎日同じメンツで、昼休み以外ガンガン働いてた。みんな明るかったから、僕のことだけ記憶にない人もいるかもしれない。なかなか明るく振るまえなかったから。
職場は隅田川のすぐ近くだった。静か

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ひとり

学生の頃の話。
バイト先の店は駅の近くで、いつも京浜東北線を降りると真っ直ぐ店に出向いていた。発注を任されていたためだ。毎日、日が落ちた頃。

デジタルの計りを出して半端な小物の重さを計っていく。1個あたりの重さは決まっているのだから個数が出る。そして何個の余裕があれば安心していられるか決めておけば、ぱっぱっと数字が出てくる。だから月末の棚卸しも毎日の作業とさほど変わりはなかった。

そこで働き始

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電話の話かな

まあ、なんていうか、人に話しかけられやすい。またはそういう状況を作るのが得意なのかも知れない。自転車を抜き出してあげたり、魚釣りをしている少年に流れの読み方を教えてあげたり、電車の切符を買おうとして悩んでいる異国人のとなりに突っ立っていたり。前回ここに書いた痴漢されてた女の子の件も似たようなものかな。
長年、僕は人が嫌いだと言っていた時期があるが、実はある程度なら、好きだ。
しかしそこには一線が引

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探りだす光景と拙い言葉を映して。

探りだす光景と拙い言葉を映して。

求めた静寂がモノクロでもなく鮮烈な色彩を持った日常でもなかった。

雨音がやんでいる。途端に冷蔵庫やパソコンのファンの音で空間が騒がしくなった。窓の外は静寂だろうか。耳を済ませていると猫の鳴き声がどこかから聞こえてきた。誰かを呼ぶような優しいものではなく、訴えかけるような厳しさ。

横になって目を瞑ると誰かの姿が見える。陽が沈む頃、河川敷をいっしょに歩いていた。「スニーカーなんて持ってない」と口に

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2013年1月、地元の、城山の駐車場から、雲を撮った写真をイジった画像です。
冬の、さみしい時間でした。
帰るたび、向き合って来たつもりの光景なのに、未消化なものばかりで、もう打つ手が無いようにも思えます。もういいよ、誰かに言われれば、その言葉を引き受けてしまいそうで、怖い。

こんなとき、晴れてくれないものだね

深夜走ったら今年の新記録だった。5キロを24分ちょうどくらい。
違和感。
意識的に速く走ったつもりもなかったが、息が少し切れていた。

帰りは河川敷を歩いた。土堤の内側、真っ暗。陸ガニの歩く音がススキの草むらからわずかに聞こえ、土堤の上の道を白い服の女性が行ったり来たりしているのが見えた。
だいぶ遠くから数人の若者の声が聞こえ始め、闇の中、すれ違いざまに接近され何かを言われ、笑われた。4~5人。胸

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非力

非力

自分や近しい人の命を想うとき、振りかざした拳がどこまで通用するのか、息荒く懸命に走った末に目指したものに手が届くのか、果たして、今世界のこの位置にいる自分の力が目に見える通り、その近しい人との距離なのかどうか、僕にはわからない。そこには人の思惑と表現される以上の、高度な政治、高度な経済が存在するからだ。原発の存在もそう。一気に電気自動車に替わらないのもそう。食品の成分表を見ても政治と金が絡んだ思惑

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愛子

愛子

『小学』

 「あいつ、昨日、またいたんだぜ」
 「誰だよ」
 「ほら、三組のさあ。みんな噂しているヤツだよ」
 「ああ、知ってる、知ってる。またいたって、砂場?」
 「そうだよ。俺、見ちゃったよ、昨日も」
 「おまえ、わざわざ見に行っているの? 毎日?」
 「ああ。行ってるよ。おまえも行けよ」
 「嫌だよ。気味悪くねえ?」
 「そりゃあな。でもよ、病みつきなんだよ。いつも迷うんだけどよ、行っちゃ

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今年1月頃の写真。うちのアパートと日没後の世界。遠くに沈みゆく富士。

まだまだここに住み続けたい。