「深層」カルロス・ゴーンとの対話 -起訴されれば99%超が有罪になる国で- 郷原信郎
2018年驚きのビッグニュースが流れた。
日産の救世主、ゴーン氏はなぜ日本の検察に逮捕・起訴されたのか。当時の日産の経営状況や役員の人間関係などをゴーン氏に直接インタビューして、出した著者の見解、「事件の深層とは」いかに・・・
インタビューの内容や詳しい日産の実情などは本を読んでいただくとして、ここでは大まかな私の理解を書きます。
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郷原氏の見立てでは、この事件は日産の業績悪化により、責任を取らされるかもしれない、と危機感を感じた日本人の幹部らが、ゴーン氏を追い出すことによって自らの保身を図ったことが始まりであり、これにつきる、ということだ。つまり内輪の社内クーデターにすぎない。
2017年、ゴーン氏後任の社長に西川氏が就任する。この頃から日産の業績は悪化したが、西川氏の解任を上が考えている、というような情報が入る。日本人の幹部らは、これは大変だ、自分らはルノーに追い出されるかもしれない、ゴーン氏を追い出して日本人だけで体制を固めてしまおう、と策を練り始める。ゴーン氏の不正を拾い出してネタになりそうなものを見つけ、司法取引をやりそうな弁護士に相談、特捜部に話を持ち掛けた。東京地検特捜部の森本部長は政治家や高級官僚の逮捕で名を上げるなど、業績を欲していたのは間違いない。渡りに船、とばかりに日産と検察の協力体制ができて、実際に逮捕が実現した。
逮捕当時、日産がルノーに支配されるのを防ぐために、経産省が主導した国策捜査だったのではないか、というストーリーをマスコミは広めていた。しかしこれには著者は懐疑的なようだ。国策捜査説を広めることで、ゴーン氏を検察に売ったことは日本のため、という大義名分のような印象を世間に与えることができる。実際は、役員達の個人的な保身の社内クーデターにすぎないのだが、これでウヤムヤにしようとした、というところか。
細かいことではあるが、司法取引に関してもおかしな点がある。本来犯罪の認識のある者が、他者の犯罪を告発して、自分の罪を軽くしてもらうのが制度の趣旨。ところが本件で司法取引をした幹部らは、実行当時に犯罪とは思っていなかったのではないか、というのである。幹部のうち一人は弁護士でもある、確かにおかしいではないか、となる。しかも司法取引での起訴内容となっている、未来に受け取る予定の報酬を有価証券報告書に記載していない、というような金融商品取引法違反は果たして犯罪なのか、自分のような素人には疑問で、無理筋逮捕と言われればそのように思ってしまう。この事件では人質司法も話題になり、裁判所が特捜案件でも比較的早く保釈するようになった。本筋以外でも世の中を変えた事件となった。
著者の郷原氏はSNSでずっとゴーン氏よりの発言をしていたけど、マスコミ世論は大方反対の立場を主張している。検察よりの朝日系雑誌の最近の記事によると、元々はゴーン氏による会社の金の私物化の常態に立腹した幹部が、これ以上やっていられない、と社内告発したことから調査が始まった、とある。つまり日産にも正義の言い分がある。本当のところは双方の主張を合わせて聞かないと分からない。残念ながらゴーン氏はレバノンに逃げてしまった。弘中先生とか豪華な弁護団だっただけに、もしかしたら無罪を狙えるかも、と大型裁判を楽しみに(失礼!)していた人も多かったはず。来月にはゴーン氏の手先とされて、一緒に逮捕された、ケリー氏の初公判がある。日本を代表する企業である日産内部で何が起きていたのか、知りたい人は多いはず。日産は最近また業績が悪化していて、国費投入の可能性がある。果たしてきちんとした企業なのか、見定めてから決めるべきではないのか。納税者の総意だろう。