日航123便墜落の新事実 -目撃証言から真相に迫る- 青山透子

 前回の「日航123便墜落 疑惑のはじまり 天空の星たちへ」の続編となる、「日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る」の感想です。前作は思い出話が多かったのですが、この本からは墜落の疑惑に関するネタが主となります。

 事故調査委員会の公式見解では事故の原因は、飛行中に後部圧力隔壁が破損したことにより、
 ♢ 爆風で?垂直尾翼が吹っ飛んでなくなった
 ♢ 周辺の油圧系統が壊滅的ダメージを受け、制御系統を喪失した

ことにより、操縦不能となり、飛行場に戻れずに山中をさまよい、結果墜落した、
というものです。

 そもそもなぜ圧力隔壁が壊れたのかと言うと、事故機は7年前に尻もち事故を起こしていて、後部を修理した経験があった。その時にボーイング社が社内規定通りの圧力隔壁の修理を行っておらず、そのことを日航も運輸省(当時)も見逃し続けてきて、ついに耐えられなくなったというもの。このことは多額の賠償を払うことになる設計会社のボーイングが認めているので、考えうる中で一番正確な事故原因と言える。どの程度の耐久性があって、不完全の修理がどういう結果をもたらすのか、に関する構造計算はボーイングが一番正確に行えることであって、他者が言うことは推測にしかならない。だから事故調査委員会はこれを正式な結論としているのだろう。

 これに反証するには相当の客観的な証拠が必要となる。では、著者の主張はどうなのか。
 
 著者はまず圧力隔壁の破損自体を疑っている。その根拠は、通常圧力の急激な変化があった場合、機内が白くなるのが定説であるが、当該機では少ししか白くならなかったという、乗客の証言と機内の写真。そうなると別の要因で垂直尾翼が吹っ飛ばないとおかしいのではないか。
 
 そこで出てくるのが撃墜説となる。

 著者は独自に集めた事故機の目撃証言から、ストーリーを組み立てていく。ある女性が飛行機が異常低空飛行し、その腹部に赤い物体が貼りついていたのを見たと言う。そしてそれをファントム(自衛隊の戦闘機)2機が追尾していたのだという。
 
 この目撃は、後追いマスコミ取材などは見られず、本当かどうかは分からない。また、女性は静岡県の市の会社勤務の方で、真夏の6時30分頃であれば、買い物、通勤帰りなどで普通に外出中の人はいたと思われる。この場合、もっと複数証言で真実性を担保しなければ話にならない。そうしないと同時刻には何も見てない、という人が大勢いるのではないか、と疑われる。
 ともあれ、これがどう撃墜に関係してくるのかと言うと、ネット情報とも合わせると、どうやら赤い物体を自衛隊の誘導ミサイルの標的機やら、ミサイルと考えているらしい。

 率直にこのアイデアはいろいろとおかしいと思った。まず標的機が飛行中の機体にくっつくなどあり得るのだろうか。ミサイルなら熱源や電波に寄っていくことも考えられるが、これは仮想で飛ばしている物体にすぎない、進路を間違えて発射したとしても、ホリエモンロケットみたいに落とせばいい。それに高速で接触したとたんに、お互いバラバラになるのではないのか。当該機は山に墜落していて、空中分解ではない。では、離陸前からくっついていたのかと言うと、さすがに管制官ら多くの人が見ているだろうし、あり得ない。ミサイルが貼りついていた説はもっとあり得ない。爆発したらファントム自体も巻き込まれる。そもそもなぜ見せつけるかの如く、わざわざ低空で地上を飛行する必要があるのかも不明。そして、ファントム2機は燃料切れのためか、結局途中でどこかへ行ってしまったらしい、追尾の意味がない。
 
 そして隠ぺい工作へ。

 著者は自衛隊がこうしたミスで撃ち落としたことを帳消しとするため、隠ぺい工作を行ったと主張する。まず墜落場所が不明と発表し、翌朝まで救出作業を遅らせて、マスコミらを遠ざけて時間を稼いだ。その夜間に自衛隊が何をしたかというと、夜中に現場に降り立ち、火炎放射器でその赤い物体を燃やして証拠隠滅を行ったというのだ。その際、周辺にいた人体も焼かれてしまった。それゆえ、後に遺体回収に携わった人たちはガソリンやタールの臭いを嗅いでいる。本来ジェット燃料では、するはずのない臭いとのことだ。また、ジェット燃料は人間を炭化するほどの火力がないにも関わらず、人間を二度焼いたように遺体はボロボロに炭化していたらしい。
 
 そうだとしたら、炭化した遺体は領域が限定されており、そのそばに墜落原因となる物体があったということになるが、それはどこなのか、物は発見されているのか。マスコミの写真に全く写ってないのか。焦げたとしても回収はしているはずだが、誰かそれを見たのか、何もわからない。また、ジェット燃料の爆発が実際にどの程度の物なのか、科学的なデータは示されていない。むしろ遺体の状況がそれを現場で示していたと考えるのが普通ではないか。そして、真夜中にヘリコプターが山中を徘徊するのは、現在でも危険であるが、更に人を降ろして、暗い中、数時間で赤い物体を探し当てて火炎放射器で焼く、なんて事はでき得るものなのか。むろん山火事になったら自分もヘリも危険だ。自衛隊に取材してから書かないと、それはただの空想になる。

 著者は博士号取得者とのこと。これは科学論文ではないので、自分でお話を作って自由に書けばいい。けれども、任務とはいえ現場で大変な思いをして作業に従事した方々を、もう少し尊重された方がよかろうと思いました。現代の自動車事故と違って、周辺をドライブレコーダーなどでくまなく録画できているわけではない。事故調査といっても、現物から分かる範囲で特定するしかない。事故調査委員会の結論は、それがすべて真実ではないかもしれないけども、それにしてもこの本の主張は客観的な証拠がなさすぎる、という感想です。まあ、最下層博士研究者の自分の感想ですが。

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