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薬と注射の備忘録(10) 『処方するなら漢方で!』

薬剤メーカー主催の勉強会で、今日は漢方の話を聞いてきた。ふだん使う漢方は限られているが、成書まで読んで学ぼうとはなかなか思えないので、こういう機会に知識を増やせるのはありがたい。


昔と違って、今や漢方は病院でよく使われる薬の一群になった。効くか効かないかで言えば、効く。漢方の場合は「効いた気がする」というプラセボ効果もけっこう無視できなさそうではあるが、臨床知見もしっかりなされており、科学的に効果は認められているし、当然副作用もある。


ただ医師は中医ではない。だから診察はそこまで厳密ではない。脈診・舌診もせず、漢方独特の考えである「証」を見立てない人が多い。

似たようなものに、鍼治療がある。西洋医学の医者も鍼をしてよく、麻酔科などで電気針をすることがある。経絡についての知識が充分にあるわけではない。

少なくとも効果はある漢方に話を絞ろう。中医学の知識が乏しく見立てもできない医者はどうやって処方しているかというと

「この症状、この病名に対してはこの薬」

という西洋薬同様の判断のしかたをしてまず一番目の薬を選び、効かなければ次の薬に変える、ということをやっているのである。『今日の治療薬』といった薬の効能・用法・副作用等をまとめた本にも、漢方は他の西洋薬と同じように効能・用法・副作用が記載され、同様の扱いを受けている。

してみるとプロとしてはずいぶんといい加減な処方かもしれない。だがそもそも脈診・舌診、証などといったものは、私の知る限り充分なエビデンスはない(研究はあるが)。中医同士でも見立てが一致しないほどである(まあ西洋医学の診断も一致しないことはよくあるが)。
そんなエビデンスの乏しいものをまじめに勉強する気にはならない、というのが医師の本音ではないだろうか。いや、たまにはそっち方面を真剣に学ぶ医者もいるにはいるが、そういう人はちょっとおかしな方向に行ってしまうことも多い。

西洋医学と東洋医学、おそらくどちらにもそれなりの利点はあろう。だからといって、そもそもそのふたつは混ぜてよいものであったのだろうか? どちらかに寄せて他方をやったり、間をとったりして本当によいものなのだろうか? 本物の中医は日本の医療のこの現状をどう見ているのか知りたいところだ。


ここで患者さんの立場を考えてみよう。じつは漢方は評判がよく、西洋薬への忌避感を抱いている人も漢方なら飲むことがある。漢方を手持ちの処方にする医者は親切な印象も持たれる。しかも処方箋で処方してもらうと安い。煮出して飲む本格的な漢方は容易には手が出ない。

東洋医学の西洋化は、大局的にはアリといったところなのかな、やはり。


Ver 1.0 2024/3/23


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