学習理論備忘録(12) 空気と食う気
帰属の話はまだあったが、飛ばす。
ということでLEARNING AND BEHAVIOR THERAPY のページはかなり戻って「文脈」の章に。オペラントではなく、パブロフ型(古典的)条件づけバリバリの話である。
パブロフの犬の実験は有名で、音の直後にエサを出しつづけると、音だけでよだれが出るようになった、というあれだ。この反応を条件反応(Condhitioned Response でCRとよく略すことを、学習者はめっちゃ覚えていたほうがよい)という。
よだれだけではない。これから迎える食行動に準備するための一連の反応が起こる。消化するためにはよだれを出し、腸の動きを活発にする必要がある。
実験は動物にとってありがたいものばかりではない。音の後に電気ショックが与えられることもある。そうすると音に対して恐怖反応を抱くようになる。
本当に害のあることがこれから起こるのであれば、恐怖反応自体は悪いものではない。来るべき電気ショックに対して、アドレナリンを放出しておいて心臓を強く動かし、痛みを感じにくく麻痺させ、逃げるときのために汗をかかせておくのだ(appetitive conditioning:「食欲条件づけ」の訳で良いだろうとのこと)。
さて、「音刺激(Tと略す)と電気ショック(Shと略す)をペアにすると音刺激だけで恐怖反応が起こる」と単純に説明してしまった。だが、実験の場面でさえ、実は話はもう少し複雑である。これらは条件づけということを行なっている実験だが、この条件づけをする文脈(Cntxtと略す)が学習において無視できない。
T と Sh → T が CS(条件刺激) になる
だけでなく
Cntxt の下で T と Sh → T が CS になる
である。
この文脈とは、ラットの実験においてはケージを含んだ「実験装置」である。
このときひとつの解釈として、「実験装置という文脈もまた条件刺激になっている」と言える。(解釈はこれだけではない)
「実験装置の中で音とエサが対呈示される」
あるいは
「実験装置の中で音と電気ショックが対呈示される」
ということだ。
実はこれで、麻薬の「耐性」をある程度説明できる。LEARNING AND BEHAVIOR THERAPYにはドラッグ使用者がキメ部屋に入ったときにすでに体が薬に対処しようと起こる「部屋効果」の例が挙げられていた(Siegel,1989等)。私が何度か耳にしたところによると、使用者は売人の顔を見るとうんこをしたくなるという。似たようなものかもしれない。
ただしどちらも可能性が示唆されるというだけで、確証は持てない。これだけのことについて、確証を得るまで研究をする人もいなさそうだ。ただ、本屋に行くと便意を催す人は多いからそれも同じ機序によるかもしれず、こちらについては研究すると、イグ・ノーベル賞くらいは狙えるかもしれない!
すでに体が反応しているので、麻薬を投与しても、すでにある程度興奮しているからか、それを抑える反応が体で起きているからか、初めて薬を使用した頃の快楽は得られないことになる。
(ただ、これは耐性を説明しうるひとつの機序であって、他にも脳内で薬物の受容体がダウンレギュレーションされるといった作用による耐性獲得も大きな要因である)
さてここからPTSDの治療に応用できる、文脈のもう少し込み入った話があるのだが、それはまたの機会にでも書くとしよう。
Ver 1.0 2020/9/11
Ver1.1 2021/2/19 "この反応を条件反応(Condhitioned Response でCRとよく略すことを、学習者はめっちゃ覚えていたほうがよい)という。"の一文を加えた。条件反応という言葉を平気で使っていたので、どっかで参照できるようにしたほうがよいと思ったのと、略語うろ覚えだと、本や授業が全然わかんなくなるって思ったので。