みんなと私の『動機づけ面接』ーークライエントとの同行二人指南(8) 『アナザー・インパクトを阻止する』
(つづき)
やはり大事なのは共感なのだ。共感がないために不協和が起こることもあるし、すでに起きている不協和に対してもやはり共感することは重要だ。
共感の表を見るとわかるように、まずはクライエントの視点を理解しようとすることが必要だ。言葉に現れていること、さらには現れていないことをも探っていけるとなお良い。
空気の悪い面接と比べると、空気の良い面接はそれができている。最初から共感的なので、そもそも不協和にならなかったといった感じだ。
不協和の例をさらに挙げてみる。できるだけ不協和をやわらげるにはどうしたら良いか考えてみよう。
症例は、少しハードルを上げて、最初からひどい不協和があるタイプにしよう。よりいっそうていねいな対応が必要になるはずだ。
【症例】
自分のしたことが裏目に出て親友が死去した際、適切な感情処理ができず、親友が死んだ場面を思い出し、頑固に周りの支援を拒否。心を閉じ、食事もろくに取らず衰弱していた失語症(正しくは失声?)の少年である。とりあえず最初の場面では食事をすることを目標としよう。ついに彼が喋ったときのセリフはこのようなものであった。
「もう誰も来ないでよ!
僕なんか放っておいて欲しいのに!」
喋らないクライエント、というものにはカウンセラーはほとほと困ってしまう。
ちなみに彼は、生涯こんな不協和の発言を繰り返してきたので、彼に接する人は共感的になろうと思う前に、こんなことを思いがちかもしれない。
そうやって心を閉じて誰も見ない。
こいつの常套手段でしょ。
ほかにも、いかりの言動などには、人は共感しづらい。だが面接の悪い雰囲気は、こういったカウンセラーの思いから始まる。それが口にしなくても態度に出てしまう。ましてやその片鱗でも口にすれば、不協和はさらに悪化し、ことによっては取り返しがつかなくなってしまうだろう。
まずは支援者はそこに抗う必要がある。次の会話は失敗例だ。(といってもこれは命令の場面なので動機づけ面接を考える例としては微妙だが、シンクロ率の低さはバッチリだ。不協和を考えるには良い)
(エヴァって言っちゃったよ)
さあ、この面接をリビルドしてみよう。不協和に向き合うのだ。ATフィールドを中和するのだ。
次は共感的に対応した一例である。カウンセラーの対応は、いずれの瞬間においても優れている。
カウンセラーのセリフにそれぞれどういう意味があるかカッコに書かれているが、この説明は省略する。動機づけ面接に詳しい人向けのものである。
いかがだろうか。
面接は最初から不協和だ。
その中で、カウンセラーは聞き返しを使って共感的に反応している。
それとはべつに、最後には是認もしている。
共感と是認は、動機づけ面接のセッションにおいて常に必要な態度であり、それがこの不協和の場面でも貫かれている。
おかげで例の名台詞を、早々に聞くことができた!
ちなみにA2では「嫌なのね。もう怖い思いをするのが」というように、維持トークを拾っている。動機づけ面接ではチェンジトークを拾う、と言ったが、このように不協和や維持トークが強いときには、さすがにチェンジトークだけ拾うような対応はいかがなものだろう。
こういうときは維持トークにであれ、共感するのが自然である。
さて、共感すればいいと言われ、そのための表も見せたが、まだはっきりとどうしたら良いかはピンと来ないかもしれない。
それもそのはず、共感するための技法について、まだ語っていないのである。チェンジトークの話をしたときもそうだが、今回も、気づく感性を磨くほうが大事だ、という話なのであった。わざとそうしている。
(こんな感じで、今年度動機づけ面接の勉強会の最終回をやったのだが、エヴァを知っている人がほとんどいなくて、スベった感じの強い回となった。さらば、すべてのネタ。)
2021/3/31 Ver.1.0
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