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アニメ映画『火の鳥 エデンの花』感想 永遠の命(名作)を得られなかったアニメ化

 うーん、あんまり誉められる出来ではないと思います。アニメ映画『火の鳥 エデンの花』感想です。

 未開の惑星「エデン」に降り立ったロミ(声:宮沢りえ)とジョージ(声:窪塚洋介)。わけあって地球から逃亡した2人は、この地を新たな楽園とすることを誓うが、荒涼とした惑星の生活は厳しいものだった。ようやくジョージは水脈を掘り当て喜ぶのも束の間、事故により命を落としてしまう。残されたロミのお腹には新しい命が宿っていた。
 ロミは一人息子のカイン(声:木村良平)と共に暮らすが、自分の死後、息子が残されることを憂い、コールドスリープで命を長らえようとする。だが、機械の故障によりロミは、1300年もの眠りについてしまう。1300年後、目覚めたロミが目にしたものは、カインと不定形生命体のムーピーによる子孫が繁栄した新人類の国だった…という物語。

 この先も、100年以上は読み継がれるであろう手塚治虫の名作中の名作漫画『火の鳥』の、「望郷編」を原作として、『鉄コン筋クリート』『海獣の子供』など、数々の漫画原作から名作アニメを生み出した実績あるSTUDIO4℃がアニメ化した作品。監督も『鉄コン筋クリート』の作画を手掛けた西見祥示郎さんによるものです。「ディズニープラス」ではエンディングのみ別バージョンとなる『エデンの宙』も配信されています。
 ということで、『鉄コン筋クリート』も『海獣の子供』も、かなりの良作だったので、STUDIO4℃が手掛けるならと、期待を持って公開を待っていた作品でした。

 「望郷編」自体は読んだことがあるといっても、もう結構うろ覚えになっている状態ではありましたが、夫を失ったロミが、子孫繁栄のためにコールドスリープを繰り返して、自分の子どもと性交し続けるという、近親相姦の展開に衝撃を受けた記憶は残っていました。けれども、今作ではやはり倫理的な配慮なのか、そこはきれいさっぱりとカットされています。

 その代わりに、ムーピーの登場を早めていて、この登場自体は原作でもある展開だし、その役割は変わらないので改変としては有りだとは思いますが、この「ムーピー」という存在がどういうものなのか、その生態以外、全く説明されていないのが、どう考えても不自然なんですよね。
 今作とは別の「未来編」を読んでいる人なら、主要キャラだったタマミというムーピーのドラマ性を知っているので、素直に受け入れられますが、その下地が無い状態では、急に表れた便利なキャラでしかなく、物語を進めるためだけに動いているようにしか感じられませんでした。

 何というか、原作の大きな特徴を改変している割には、原作を知っている人前提で話を作っている感じがチグハグに思えてしまうんですよね。コンプラ重視して造りかえるのは致し方ないとしても、ならば現在に合わせた新しい作品にしてやる気概みたいなものが感じられず、原作を美麗な映像作品にしたという以上の価値が見えて来ませんでした。

 確かに、銀河の映像にあるサイケデリックな色彩は、STUDIO 4℃でしか出せない仕事だし、地球によく似た惑星で出てくる花の生命体、鉱物の生命体なんかも、今のアニメだから出来たアレンジ映像という感じで、成功している部分もあるとは思います。けれども、それらは話の本筋に関わってこない、宇宙描写の1つにしか過ぎないんですよね。

 それ以外に心動かされたシーンは、闇商人のズダーバン(声:イッセー尾形)が、エデンに「欲望」をまき散らす展開の部分ですね。人間の欲を刺激する商品が変化を繰り返して、最終的には大きなロケット爆弾=核兵器になるという演出は、現実の世界情勢も含めてドキッとさせられてしまいます。ただこれも手塚漫画の表現を動画にしたもので、手塚治虫の手法がいかに色褪せていないかを証明したものになっています。

 現代の状況を考えてのアニメ化という意図はあったかもしれませんし、確かに『火の鳥』という作品が描いた人間の愚かしさは、今なお、鳴らされるべき警鐘だとは思います。
 だけど、『火の鳥』で描かれているものは、悠久の時間というデカい視点からのもので、そこで人間種族が滅びようが、惑星が消え去ろうが、時の流れの1つにしか過ぎないんですよね。だから、滅びることへの諦観の念みたいなものが、増加する一方なので、現代においては警鐘というより、「もう人間社会は滅びるしかない!」という気持ちにさせられてしまいます。

 そもそも火の鳥がほとんど関与しないのに、タイトルに『火の鳥』が入っているのもどうかと思ってしまいました。全作アニメ化するつもりならともかく、このエピソード単体を原作にしたなら『火の鳥』を謳わなくてもよいのではと思ってしまいます。『火の鳥』を原作にした『エデンの花』というSFアニメ作品として、しっかりとオリジナルな作品として欲しかったと感じました。
 これを観るなら、さっさと原作漫画を読んだ方が、よっぽど衝撃と感動を受けると思います。


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