映画『返校 言葉が消えた日』感想 恐怖で伝える哀しい歴史
ド直球のベタホラーですが、しっかりとメッセージ性が伝わる作品でした。映画『返校 言葉が消えた日』感想です。
戒厳令が敷かれ、国民党による政治的弾圧が続く1965年の台湾。反体制思想を取り締まる名目で、自由に読書をすることも禁じられている中、翠華高校では監視の目から隠れながら、教師と有志の生徒による読書会の活動が密かに続けられていた。
ある日、放課後の教室で目覚めた女子学生のファン・レイシン(ワン・ジン)。なぜか誰もいない校舎を彷徨っていると、読書会のメンバーであるウェイ・ジョンティン(ツォン・ジンファ)と出会う。校舎から出ようと協力し合うが、どうしても校外へ出ることが出来ない。校内を彷徨いながら、悪夢のような恐ろしい体験をする2人は、やがて読書会のメンバーが辿った恐ろしく哀しい運命を知る事となる…という物語。
台湾で作成されたホラーアドベンチャーゲームを原作にして、実写映画化された作品。原作のゲームも大ヒット作品だそうですが、映画の方も本国では大絶賛だそうです。
評判が良いのを何となく耳にして、あまり前情報を入れずに観に行ってみました。政治的弾圧を受けた台湾の人々を描くホラーという、漠然とした情報だけ聞いていたので、全体主義をホラーとして捉えた社会派映画なのかなくらいに思っていたんですけど、観始めたら割とガチの学校心霊もので、何の心構えもしていなかったのでたっぷりとビビりながら楽しむことが出来ました。
作りとしては本当に至極全うなホラーなんですよね。舞台は学校という閉鎖された空間で、出会う人間は既に死んでいるというのもいかにもベタです。
基本的にこういう心霊ホラーって、個人的にはあまり好きではなかったんですよね。別に怖いのがダメとかではないんですけど、何か理不尽に思えてしまうのが好みではないんですよ。
何かしらの想いを遺した哀しい霊が、恐怖を巻き起こすというのが常ではあるんですけど、それに巻き込まれる人々はたまたま居合わせた生徒だとかで、何の関係もない人間だったりするパターンが多いと思います。でも、それで犠牲になるのって無差別殺人のようなものと感じてしまうんですよね。いくら恨みつらみがある霊とはいえ、関係ない人間を殺め続けていたらサイコパス犯罪者みたいなものじゃないですかね。それで哀しい事情が明かされてもなと思うことが多かったんですよね。
ただ、今作品では、その哀しい出来事の当事者たちのみで構成されているので、あまり理不尽さを感じずに済むことが出来ました。その点だけでも、結構すんなりと入り込むことが出来て、高評価に感じられます。
通常のホラーのように、人間の嫉妬とか生前の悔悟といった、哀しくも恐ろしい感情は描かれているんですけど、全体主義的な弾圧を一番の恐怖として描いているのが、作品の一番大きい特徴だと思います。作中で一番の怪物として登場するのがバイ教官(チュウ・ホンジャン)というのは、わかりやす過ぎるほどの象徴ですね。
時代背景に戦争を持ってきているホラーは日本にも多くありますが、それらはあくまで「背景」としているだけだったように思えます。今作のように真っ向から、当時の出来事を伝えるための物語ではないんですよね。
当時の社会制度、当時の政権が行ってきた事を、負の遺産として伝えるために、ゲームやホラー映画というエンタメを使うというのは、すごく面白い試みだと思います。教育として伝えるのも大事だと思うんですけど、若い人にはこちらのやり方の方が頭と心にすんなりと知識となって入ると思います。
韓国の音楽に映画や文学などが、一大コンテンツとなった昨今ですが、次は台湾エンタメにも注目が集まっているようですね。台湾はコロナ対策なんかも世界でトップレベルだと思いますし、今後も注目しておきたい国だと思います。