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世界一小さな芸術祭2024レポート(文学フリマ東京39出店Q-55)

いきつけの中華屋の扉が勢いよく開くのが聞こえた。
「ケイさん!!世界一小さな芸術祭、今年も開催されるんですか!」
ゴン(ゴン田中)が唾をとばさんばかりの勢いで聞いてきた。私も寺越に連絡をもらった時は驚いた。今年もやるのかと。何を考えているのだろうアイツは。
「お久しぶりです。中谷さん。ゴンちゃんに誘われて…お邪魔じゃなかったら私もここいいですか」
おくれて現れたのは吉本恵さんだ。勿論大歓迎なので席をうながす。ゴンの勢いは止まらない。
「ケイさん!寺越さんなんて言ってたんですか?今回は何をやるんですか?」
どうやら今までの自分の活動を本にして文学フリマ東京39に出店するらしい。
「え!寺越さん本を出すんですか?自分の活動…てことは「出会った人と作っていくぜ」を全部?え、そういうこと?」
「ゴンちゃん落ち着いて。座って注文しよう」
吉本恵さんになだめられ落ち着きを取り戻し瓶ビールを注文する二人。
「申し訳ないんですけど、世界一小さな芸術祭ってなんなんですか?」
吉本恵さんの言う通りだ。世界一小さな芸術祭はその名の通り私の周りで存在を知ってるのはゴンと硝子(高永硝子)位だろう。
「メグちゃん説明したじゃん。寺越さんが好きでやってる小さな小さなちい〜さな芸術祭だよ!」
瓶ビールがきたのでゴンと吉本恵さんのグラスに注ぐ。ゴンはお礼と共にグイッと飲んで
「2021は寺越さんの四畳半の風呂なしトイレ共同のアパートで行われ、2023はいろんな野外で寒い中公開クリエーションをするっていう、ちい〜さな小さなちい〜〜さな芸術祭なんだよ。」
吉本恵さんは意味がわからないという表情を浮かべていたので、ゴンに変わって丁寧に説明する。

※世界一小さな芸術祭2021

※世界一小さな芸術祭2023

「なんとなく…なんとなくは理解しました。」
「なんでわからないかなぁメグちゃん。」
そりゃわからないだろう、寺越のやってる事なんて。ただ今回の世界一小さな芸術祭2024は今までの活動の本を出すという事で一番わかりやすいのかもしれない。
どうやら俳優でありながらデザインなども得意としてる吉田みずほさんと一緒に作るらしい。ちなみに2021と2023も彼女はメインビジュアルを始めとした様々な部分を担当していた。世界一小さな芸術祭には必要な人なのだろう。宣伝のために2人でポットキャストも始めたらしい。

名前は知っていたが行った事はなかった文学フリマにまさか寺越きっかけでいくことになるとは…わからないものだ。寺越は私のレポートもつかわせて欲しい旨を伝えてきた。そういう意味では私も文学フリマに片足を突っ込んだ形になっている。
世界一小さな芸術祭の事、寺越の活動の事を延々とゴンが喋るもイマイチピンときてない表情の吉本恵さんという2人の構図が面白く楽しい時間になった。

私はここから寺越と吉田みずほさんのポットキャストは聞くものの、インスタなどはあまりみないようにして情報に制限をかけた。なぜなら実際どういう本がどういう形で出来上がったか会場で始めてこの目でみたいと感じたからだ。

そして迎えた文学フリマ東京39当日、いや世界一小さな芸術祭2024当日。ビックサイトに到着すると 1時間前にも関わらず長蛇の列が。
事前に調べたところ「世界一小さな芸術祭2024」のブースはQ-55。だいぶ入り口から離れている。この大人数の中私は辿り着けるのだろうか。スマホが鳴りゴンから
「凄い人の多さです。世界一小さな芸術祭じゃないじゃないですか。」
そりゃそうだろう。これは文学フリマだ。Q-55の小さなブースが世界一小さな芸術祭なのだ。
時間になり人の列が徐々に会場内に入っていく。ゆっくりゆっくりと私の番になり入場券を渡して入っていく。
そこに広がるのは圧巻の光景と異様な熱気。数えきれないほどのブースに数々の本が置いてあり、それぞれのブースが個々の特色で彩っていた。どのブースもそれぞれのやりたい事がそこかしこにこめられており見ていても幸せな気分になってくる。次々に人が入ってくるので押されるように世界一小さな芸術祭2024が開催されているQ-55へ歩を進める。他のブースを見ていると、つい足をとめてしまいそうになるので、早足でQ-55へ。受け付けでもらったパンフレットを片手にどんどん進んでいく。

うん?あれだ!

長テーブルの半分にダンボールで世界一小さな芸術祭2024と書いてある。

準備している吉田みずほさん

相変わらず怪しいダンボールだ。恐らく寺越の仕業だろう。私に気づいた寺越が
「お〜!ケイさん!来てくれたんですね!ゴンさんは一緒じゃないんですか?」
どうやら私はゴンとセットだと思われているようだ。本当にコイツは…。ゴンはまもなくくることを伝え、早速本を見せてもらう。

吉田みずほさんデザインによる色とりどりの12種類の表紙 

デカイポップをみると
ALL500円
出会った人と作っていくぜ
・四国一周編
・札幌→蘭越→函館編
・東京編から世界一小さな芸術祭2021と2023
・伊豆大島編から脳内エクスチェンジャー
・佐渡と駄菓子屋と子宮生前葬
・西成編「包容の渦」
・沖縄(拝啓 銀天街シャッターさん)
・宮崎(新富町)編「舞のみにけ〜しょん」
・岩手(二戸市)編「Feelinling」
・隠岐の島(海士町)編「ゲイニャキョウニャ」
・鳥取(湯梨浜町)編「(仮)源泉パトロール」
・壱岐編「イカシスハカ」

12種類も作ったのか…。
「はい。おれが書いて、ヨッシー(吉田みずほ)が版組、装丁、デザイン、表紙デザインなどなどやってくれました。もうヨッシー編集長ですわ(笑」
吉田みずほさん凄く大変だったんじゃないですか。
「そうですね。でも散々寺越さんにブチギレさせてもらいましたから(笑」
想像に容易い。私も寺越にはブチギレそうになる。なんて人の感情を逆なでるやつなんだろう。
「本当にすいません(笑)ちなみにポットキャストの編集もヨッシーです」
吉田みずほさんの出来る事の多さと寺越の出来る事の少なさに妙に納得する。
「オススメは一番始めの四国一周編と最近の壱岐編鳥取編、隠岐の島編などを見比べてみることっすね。もう全然違いますから。やっぱり一番始めはドタバタしてます。あ!ケイさんレポートつかわせてもらってありがとうございます!じゃあこれはプレゼント…あ、いや、でも各3部しか刷ってないし…あ、今度」
もごもごし出した寺越は面倒くさそうなので食い気味に四国一周編と壱岐編を購入する事に。
「ありがとうございます!!嬉しいっす〜!!」
「中谷さんありがとうございます」
見本を手に取り他の土地のものを見せてもらう。
寺越の拙い文章を吉田みずほさんの丁寧な仕事が包みこんでいる。
「あ!岩手編みてますね。岩手の二戸は自殺率が高く、そこから死生観についていろんな本で調べてゼロポイントフィールド仮説というものが一番興味深く、その空間を…っていうか中谷さん二戸見に来てくれたじゃないっすか〜」
うるさい…ゆっくり本見れないな。他のブース見てくると寺越に告げ、見てまわる。
世界一小さな芸術祭2024の隣のブースのエピテみやびはポットキャストでも紹介されており、エピテーゼが展示していて非常に興味深かったが寺越がうるさそうなので、後でみよう。

ポットキャストで紹介していて気になっていた季刊性癖のブースに足を運ぶ(性癖の性は性質の性)
ブースにいたのは著者の水の人美さん。彼女と話したら一見ハードな内容とは裏腹に人間の深層に迫っているドキュメンタリーだった。気づいたら購入していた。水のさんのような非常にマイルドな人だから心を開いて性質の癖をいろんな人が話すのかもしれない。
次もポットキャストの紹介で緊縛受け手女子たちのアンソロジーである拘束の天使たちを見にブースへ。え…縛られて本を読んでいる。話しかけていいんだろうか。気づいた向こう側が話しかけてきてくれた。私は緊縛の世界は詳しくないが緊縛師は名前が出るが、緊縛を受ける方の存在はあまり世に出にくいらしく、その人達の声を丁寧にすくいあげている本のようだ。興味深く購入を決めた。
しばらくいろんなブースをウロウロするも本当に人が多い。まるで土日の渋谷のようだ。

人混みに疲れた私は再び世界一小さな芸術祭2024のブースに戻った。そこには寺越と楽しく話すゴンと吉本恵さんの姿があった。
「何買おうか迷うなぁ」
「ゴンさん!そういう時はこのポップのキーワードみてピンとくるものを手にとってみて下さい。例えば西成編だったら、ほらココ。″居場所を探している″みたいにね。」
「お〜確かに各ポップに書いてある!」
「表紙可愛いですね。これも寺越さんなんですか?」
「いやいや吉本さん、おれにこれは無理でしょ。コチラのヨッシー先生ですよ!」
「あ!そうなんですね。表紙どれも可愛いらしいです。」
「ありがとうございます。」
楽しそうに盛り上がっている。今の内に寺越たちの隣のブース、エピテみやびに行きみやびさんに話しを聞く。エピテーゼとは先天性や事故などで失った手の指、足の指、乳房など身体の一部の見た目を補う人工の装置。身体にいい海外製シリコンを使いちゃんと着色を施し、まるで本物のように見える。みやびさんは歯科技工士であったが、友達のふとした声によりエピテーゼを社会に広めようと決断したとの事。社会に貢献しているエピテみやびさんの隣が貢献とは無縁の世界一小さな芸術祭というギャップに笑ってしまう。でもそういう様々なブースが隣合せにひしめき合ってるのも、この文学フリマの面白いところなんだろう。私がみやびさんと話していたらゴンと吉本恵さんもコチラに関心を抱き始めた。
「え!ゴンちゃんこれ見て!」
「お〜凄いなぁ。この指触ってもいいんですか?」
優しく頷くみやびさん。
「お〜本物っぽい触感だ、メグちゃんも触ってみなよ」
「え〜ちょっと怖いけど、すいません。触らせてもらいます。うわ!あ、すいません。凄い…」
「でしょ、本物みたいだよなね。これつけてみてもいいですか?」

楽しそうに笑いあってる2人は放っといて寺越のところに戻る。
「中谷さん面白いブースありましたか?」
寺越に季刊性癖と拘束の天使たちを見せる。
「え!いったんすか!いいなぁ〜。なんかおれ今回初めて参加しましたけど、どのブースもやりたい事にフルスイングしてて清々しいんですよね。中谷さんも知っての通り、おれのやってる事って人にあまり理解されないじゃないですか?別に全ての人に理解してもらおうとは思ってないし別にいいんですけど、いいんですけど〜たま〜に寂しくなる瞬間ってあったりするんすよね。本当に一瞬ですけどね(笑」
寺越が感慨深げに話しているのが少し笑える。ただ真剣に何かを感じたようだ。
「ここはみんながやりたい事をやりきってる。それが集まって生み出してる空気が居心地いいなぁって感じるんですよね。なんか″そんなんもありじゃん″って言われてるような気にさせてくれるというか。赦されるというか。まぁなんにせよヨッシーが誘ってくれなきゃこの景色は見れなかったなぁ。」
そうだ。吉田みずほさんがこの文学フリマに出ることを勧めたのだ。そんな吉田みずほさんを見ると、うん?徐々に寺越から距離を取り始めている
「え…気持ち悪いんですけど。」
思わず吹き出してしまった。
心外そうな寺越と変なものを見る目な吉田みずほさん。そんな歪な2人をみてますます笑いが溢れる。

そんな2人が文学フリマ東京39というビックサイトで行われる恐ろしくデカいイベントの長机の半分程の大きさのQ-55ブースで
世界一小さな芸術祭2024を開催した。
2021と2023とはまた違う「本を作る」というやり方で。次はいつ、どういうやり方で開催されるのだろうか?
少しだけワクワクしてる自分がいた。

文  中谷計

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