友達は統合失調症(福岡編 前日譚)

Kくんとおれは大学の同級生。最初の印象はクマみたいだと思ったのを覚えてる。浅黒く全体的にふっくらしていて、のそのそ歩き、ゆっくりな喋り、満腹の時のクマだ。害のない優しいクマ。
そんな彼とは意外と気が合った。お互いの家を行き来して、いろんな話しをしたり、ボーっと過ごしたり、多くの時間を過ごした。大学の日々はあっという間に過ぎ去り、周りは就職していき、おれは根拠なき自信を携えて俳優になるため東京へ。Kくんは
〇〇県に就職していった。
東京いったばかりのおれは小劇場出たり、オーディション、WS、劇団入団と怒涛のように日々をこなしていった。その間Kくんと連絡していたかは今は覚えていない。していたような気もするし、全くしてなかったような気もする。

東京きて5年目位、大学の友達からいきなり連絡がきた。
「Kが全く連絡とれないんだけど、お前知らない?」
「え!知らない。なんかあった?」
細かい事情はよく覚えていないが、兎に角Kくんと連絡つかなくなり、家も誰もいない、職場に訪ねる訳にはいかず周りが心配しているとの事だったと思う。この友達と相談してどうしたらいいか話した。そこでおれらが思いついたのは大学の卒業アルバム。今はもうないと思うけど、この当時の卒業アルバムには連絡先と実家の住所がのっていた。おれは勢いあまって「Kの実家いってくるわ!」といっていた。

□□県に向かって新幹線、そこからKくんの▲▲村までは1時間に1本か2本位しか走っていない駅と駅が恐ろしく離れてるゆったりとした電車にのって延々と。何時間かかっただろう。周りはなんもない駅について交番を見つけ訪ねるとKくんの実家を教えてくれた(これ、今だと個人情報保護法とかで教えてもらえないんだろうか)
大きな家だ。チャイムを押すとインターホン越しに声がして、Kくんの友達という事を伝えたら、玄関が開いてKくんのお母さんらしき人が出てきた。Kくんのお母さんは淡々とした口調で
「ちょっと身体壊してコチラの病院に入院してるので、落ち着いたらKから連絡するよう言っときます」といいサッと家に戻っていった。

なんだ⋯わからんが何かが腑に落ちない。モヤモヤしながら大きな家を後にして、山ばかりで家と家がだいぶ離れている▲▲村でゆっくりと駅に向かって歩いている時に、ふと思った。
「塩対応すぎねぇか!」
え!東京から!わざわざ息子のために遠いところ来てくれてありがとうございます。じゃあちょっと折角だからお茶でも⋯とまでは言わないけど、なんかなぁ、なんかなぁ。確かにおれは怪しかったと思う。そんでもう十何年も前だから、ちょっと盛られてるところはあると思うけど、けど、でも塩対応のイメージは強く残ってる(まぁこの理由も後ほどわかるんだけど)

でもなんにせよ、Kくんの居場所はわかったので、たまに手紙を書く事にした。そんなに頻繁ではないが送っていた。一向に返信は来なかったが、見てくれてるだろうなぁと思いながらKくんに向けて書いている時間は楽しかった。
ある日郵便ボックスを開けると封筒らしきものが入っていた。まさか!!早速開けてみてみると⋯
うん?Kくんの父からだ。めちゃくちゃ達筆のウネウネした文字が便箋にはっていた。ここまで達筆だと逆に読みづらい。なんとか読みきって愕然とした。
結論からいうと「もう手紙は送ってこないで欲しい」いろんな言葉が書かれていたが、要は世間体だ。
Kくんの実家がある▲▲村は田舎だ。その中でKくんの家はあんだけ大きな家に住んでるだけあって名家なのだろう。息子が病院に入院してることを悟られ変な噂になるのが嫌なのだろう(おれは封筒ではなくハガキで送っていた)あの時の塩対応の理由もなんとなく腑に落ちた。ここからKくんとの連絡手段は途絶えてしまった。

何年たっただろう。
ある日知らない番号から連絡がかかってきた。おもむろに出ると
「おう〜寺越〜元気か」
「え?え!もしかしてK?」
「そうだよ〜」
「久しぶり過ぎるわ!何してたんだよ。身体よくなったのか?」
そこで初めてKくんが統合失調症だという事を知った。福岡の療養所でお世話になっていると教えてくれた。久しぶりのKくんの声は変わっていないような感じがしたが⋯どうなんだろう、久しぶりに声聞けてコチラもテンション上がったので冷静に判断は出来なかっただろうなぁ。

そこからはたまに連絡するようになった。Kくんは唐突に「今までありがとうね。さようなら」みたいに送ってくる。当初は心配してヒヤヒヤしていたが少し経つと「元気〜」みたいに連絡がくるので、これも慣れっこになっていった。またいつもの周期ね、みたいに受け入れてた。

去年のある日の朝4時位にKくんから今までみた事がないような怪文書みたいなLINEがきた。ざっくりいうと女性達に嫌がらせをされていて、その女性達を仕切っているのが大学の共通の友達の奥さんだから結果的にその友達が悪いみたいな⋯よくわからない。Kくんに連絡した。言ってる事がいつも以上に意味がわからなかった。え、幻聴じゃないの?そもそもこんなに会話できなかったっけ?

Kくんは今どういう状態なんだろう。

こんな事を考えているとKくんのみてる景色が知りたくなってきた。近年おれがやっている各地に行ってそこに住んでる人をまきこんでパフォーマンスを作る「出会った人と作っていくぜ」を利用して彼の精神世界、引いては統合失調症の世界をパフォーマンスにしたくなってきた。

こういう風にしか考えられないおれはどうなんだろうか?

でも好奇心が疼く。
そんなわけで第十五弾は福岡に決めた。
昨年末にたまたま行ったイベントで福岡在住のアーティスト篠田はるかさんと知り合う事ができて、また前回壱岐の時に一緒に作った古賀研太さんも福岡にいるため彼らと作ろうと考えている。なんの偶然か篠田さんのアトリエとKくんの住んでるところはめちゃくちゃ近い。こういうのも必然のような気がしてくるもんだ。

Kくんにはちゃんと事情を伝えこれを書いている。

いつもはKくんとはバカ話ししかしないが最近はKくんの病状や現状、かかった経緯などを教えてもらっている。ただKくんとの会話は迷路のようだ。何気ない会話していた時も薄っすらとは感じていたが、聞きたい事を質問してもそれとは全く違うところにどんどん進んでいき「え、それなんの話し?」みたいに迷わせる。知り合いのクリニックの先生に聞いたところ統合失調症はそういうところがあるらしい。

最近のこの企画は現地に行きフィールドワークしてそこから抽出してパフォーマンスを作っていたが、久しぶりに人から抽出してパフォーマンスを作る形になった。事前に大枠を作っていこうと考え統合失調症をいろいろ調べてなんとなくパフォーマンスの形が見えてきた。ただ統合失調症という部分が強すぎてKくんという部分が薄いような気もする。

まぁ福岡にいる間はKくんのアパート(現在は1人暮らしが許されている)に泊まらせてもらう予定で久しぶりにガッツリ関わりいろいろ発見することがありそうなので決めきらなくてもいいかな。

最終的にパフォーマンスをみた後Kくんがどんな顔してるか楽しみではある。

そして友達としておれなりのKくんとの関わり方を見つけられたらとかも思ってもいるが⋯どうかなぁ。


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