重なり合う「プロ」と「アマ」の世界~京都のシェア型書店
今年の祇園祭のころ訪れた京都で、いくつかの書店に足を運んでみた。
旅先でわりと訪れるお決まりの場所といえば図書館だったのだが、ひとり出版レーベルの雨雲出版を始めた昨年からは、あらためて小規模な書店を巡ってみたくなったのだ。
パートナーが関わっている仕事についていく短い滞在だったのもあり、ひとりでの自由時間は限られていたが、その中でチャンスを見つけて電車やバスを乗り継いで気になるお店に行った。
2024年7月にオープンしたばかりの一乗寺ブックアパートメントはシェア型書棚と新刊書のお店だ。
こじんまりとした一階の店舗の扉を開けると、正面の壁に大きな書棚が目に入る。本をディスプレイするのにちょうど良い正方形の棚がずらりと並び、それぞれの「一棚店主」が作り出す個性あふれる色とりどりの世界が詰まっている。
右奥のカウンターにはドリンクメニューがあり、テーブルといくつかのチェアがあって、飲み物を片手に店主やお客様など、そこに集まるひとたちとの会話を楽しめるちょっとしたほっこり空間だ。
店主と居合わせた人たちとの本をきっかけとしたおしゃべりも弾み、良き時間となった。
「本好きのオアシスのような場」とは店主のお言葉だが、この時代にかえって小さな場所でアナログな出会いをするのも、本を愉しむ者同士の面白さなのかもしれない。
翌日には、もう一軒のシェア型書店へ。
京都は丸太町のこもれび書店は、2023年オープンのお店。
店内はわりと広く、同じように壁に沿って棚が並び、店舗入り口寄りのスペースではギャラリー展示や企画物ができるように作られている。
こちらもカフェメニューがあって、飲み物を美味しくいただきながらゆっくり過ごすことができる。
こもれび書店でも、店主と色々お話する機会を持てた。
シェア型書店は、東京でも西日暮里ブックアパートメントや神保町PASSAGE(パサージュ)/SOLIDAなど、規模がもう少し広いお店を見てきたけれど、一部の大手出版社や著名人の棚は別として、個人の運営する棚にはそれぞれの世界観が見えてとても興味深い。
ビジネスとして売り上げを立てることは大切だが、それ以上に「本を売る」という行為はパーソナルな部分に関わるものなのだと思う。読者としても、それに触れることが楽しくもある。
文学フリマやひとり出版社、ZINEづくりなど、プロフェショナルが行ってきた「出版」や「本づくり」の世界が時代とともに変遷し、プロとアマの境界線があいまいになっていく。
書き手も売り手も、読み手も。
これは本にまつわる世界だけでなく、多くの場所で起こっている現象だと最近強く思う。
一棚店主も、本を売るエキスパートとは限らない。
でも、本への思い入れはきっと人一倍あるのだろう。
一般の人たちの生活に欠かせないほどデジタルが振興し、同時にアナログ回帰というよりも、アナログとの融合性やインタラクション的な世界が各所に現れ、そして変化していく。
だからこそ、プロフェショナルには古き良きプロの世界から脱却する柔軟性が、アマチュアにはプロじゃないからと遠慮することなくツールを活用してドラスティックに世界を変えていく姿勢が求められている。
ひとり出版社や翻訳出版について語ると、出版不況などと諭すような言い方をする業界人もいなくはないが、内向きで排他的になっている隙に、新しい波に潰されてしまわないかな、と思ったり思わなかったり。
また時間を取って、訪問できなかった素敵な書店を巡りたい。
そして、雨雲出版でベッシー・ヘッドの小説の翻訳を商業出版できたら、どこかで一棚店主デビューしようかと企んでいる。
京都旅はYouTubeにアップしています♪ぜひご覧ください。
エッセイ100本プロジェクト(2023年9月start)
【29/100本】
エッセイのまとめマガジンです。随時追加されていきます。 アフリカのこと、仕事のこと、生き方のこと、ライフワークのことなど。 つながらないようで、どこかつながっていくコンテクストのような文章です。