秋の日に頂いたおくりもの
すこし冷える日だ。
時期的には春だが、この肌寒さで思い出した。
昨年の秋にいただいた手紙の話。
*
私は、一年ほど文通村という媒体を通して
文通をしている。
自分よりも人生の先輩方が多く、
知らない世界を教えてもらえる上、
自分の書きたいことだけが書けるので
ちょうどいい距離が保つことができ、
意外にも続いている趣味の一つだ。
その中に、
元国語の教師、いまは定年退職された
ゆうじさんという方がいる。
ゆうじさんは、趣味で短歌を詠んでいて
私にも四季折々のことばをお裾分けしてくれる。
*
そのゆうじさんに恋愛相談をした。
『今の彼は、いい人だ。
だけど、女性の扱いができなくて
イライラしてしまうときがあって
自分が嫌になる』
忘れた頃にお返事が来た。
自分も女性の扱いが長年わからない。
だから、女性の扱いなんて、
僕には耳が痛い話だ。
女性と男性は、脳が違うというし、
ある程度はご愛嬌かもしれないね。
ただね、
ひとは六角柱だと思う時があるんだ。
ある一面を知れたと思っても
知らない一面もある。
彼にも、あなたが好きな一面もあれば
嫌いな一面もあるんじゃないかな。
全ての面を好きになれるんだろうか。
そうだ。
胸にすとんと落ちた。
彼の全部を好きになるなんて。
そんなのはなから無理だ。
それが言葉にされた途端、
ふしぎと、
すっと軽くなった気がした。
わたしも完璧じゃないんだし。
そりゃ彼にも完璧を求めたらダメだよね。
*
ゆうじさんはさらに続けて
自分の経験した恋の話を少し書いてくれていた。
大学時代、自分にもお付き合いした女性がいた。
就職を機に
遠距離恋愛になってしまったんだけど。
そのとき、
彼女は自分と結婚したいといっていたが、
自分は身を固める覚悟ができず、
結局お別れしてしまった。
まさに当時流行った
「木綿のハンカチーフ」のようだった。
定年した今も、思い出して苦い想いになる。
あのとき、結婚していれば。
還らぬ昔はやり直せない。
あなたも後悔しない決断をしてほしい。
よみ終わってすぐに
「木綿のハンカチーフ」を聴いた。
時間をかけて、ゆうじさんの言葉を
自分の心に溶かしていった。
自分の物にできるように。
外でコオロギが鳴いていた夜だった。