【ネタバレ注意】自己犠牲はほどほどに。アニメ『コードギアス 奪還のロゼ』感想
劇場アニメ『コードギアス 奪還のロゼ』の最終章を、先月鑑賞した。
多感な時期に『反逆のルルーシュ』に情緒をメチャクチャにされ、それ以来『ギアス』が自分を形作るピースの一つになっている僕だが、正直『奪還のロゼ(旧称:奪還のゼット)』に対しては期待と警戒の感情が半々で、そこまでブチ上がっていたとは言えなかった。
理由は、10年前に公開された『ロゼ』と同じギアスの外伝作『亡国のアキト』がいまいち刺さらなかったことと(亡国のアキトがもう10年前!??!)、2021年に「ギアスプロジェクト再始動の嚆矢!」と言わんばかりに公式からプッシュされつつも結果を残せずに終わったスマホゲーム『Genesic Re;CODE(ギアジェネ)』の失敗が記憶に新しかったからだ。
そうした理由からあまり期待を持たずに劇場に赴き、第1幕(1話~3話)を見た僕だが、ロゼとアッシュを主人公に始まった新たな物語は、原点である『反逆』をオマージュしつつも『反逆』のなぞりに終わらない予測不能の物語を見せ、手放しで褒められない点も多かったものの4ヶ月間僕を楽しませてくれた。
特に起承転結の「転」から「結」を描いた3幕~最終幕(7話~12話)はギアスシリーズに共通する「裏切り」の面白さが強く出ていて、3幕終了後は1ヶ月後の最終幕が待ち遠しかったものだ。
このnoteでは、個人的な奪還のロゼの感想と評価を述べていく。本作が気になっている人の参考になれば幸いだ。
◆見事な換骨奪胎
物語は『復活のルルーシュ』の5年後からスタートし、北海道をまるごと占拠し「シトゥンペバリア」と呼ばれるエナジーフィラーを激しく消費させるエネルギーの壁を貼って北海道に立て籠もった「ネオ・ブリタニア帝国」を名乗る旧ブリタニアの残党集団とそれに対抗する日本人のレジスタンス「七煌星団」の戦いと同時に、七煌星団に請われネオブリタニアとの戦いに参画する「ナナシの傭兵」ロゼとアッシュ・フェニックスの、ネオブリタニアに囚われた親友・春柳宮サクラを救うための戦いを描く。
本作は既存の外伝作と比べて、先述のようにシリーズの原点である『反逆』を直球でオマージュした作風が特徴となっている。
例としてロゼ(=皇サクヤ)の「己の正体を偽り続けねばならない」「聴覚から作用する絶対遵守のギアス」という設定は言うまでもなくルルーシュ・ランペルージ(=ゼロ)をド直球に踏襲しているし、第1話の「窮地に追い込まれたかに見えたアッシュが、ロゼの知略と乗機『Zi-アポロ』のスペックにより窮地をチャンスに変えて強敵を討ち取る」という展開は、カークウェイン兄との謎チェスも含めて『反逆』1~2話のルルーシュの初戦やたった一機でルルーシュの知略を粉砕しかけたランスロットの活躍の明らかなオマージュだし、2話でロゼの策略に従った七煌星団が、敵のKMF・カムデンを鹵獲して戦うシーンは『反逆』序盤の物資の乏しい黒の騎士団の戦いを想起させる。
こうした『反逆』オマージュは最後まで続き、視聴者は要所要所で、時にニヤリとさせられ、時に『反逆』の名シーンを想起させられて情緒を乱されることになる。
また、設定面だけでなく『ロゼ』は、『反逆』が支持される要因の1つだった「予測不能な『裏切り』が連続する展開」という点においても原点に立ち戻っている。
「ネオブリタニアの実質的な統治者で、謎多き仮面の男・ノーランドの思惑」「ギアスという偽りで結ばれた兄弟、ロゼとアッシュの行く末」「お飾りのネオブリタニア皇帝に就任させられたサクラと、弱い彼女を見下すキャサリンの関係性」などの伏線が張られ、二転三転する物語に振り回される視聴体験は、まさに約18年前、我々がテレビの前で味わったソレであり、設定面と合わせて「俺達の『コードギアス』が帰ってきたんだ」という喜びを与えてくれた。
それでいて『ロゼ』は単なる『反逆』のなぞりに終止しているわけではなく、オマージュと同時に独自の物語をちゃんと作り上げている。
ルルーシュとは違うアプローチで「王の力による孤独」に苛まれるロゼもそうだが、特に『ロゼ』の物語の独自性を強めているのが、枢木スザクを想起させつつも絶妙に『反逆』にはいそうでいなかったキャラ性を持つアッシュ・フェニックス。
「心の支えであった弟をノーランドによって失い、失意のどん底で重護と出会ったことで再起するも、その重護をも失う」「重護の娘であるサクヤを救うことを誓うが、そのサクヤにギアスをかけられ、最愛の弟の記憶を結果的に弄ばれる」という悲惨すぎる過去を持った彼がどのような道をたどるのかは、『ロゼ』の物語で最も視聴者の心を揺さぶったトピックと言っても過言ではないし、ギアスキャンセラーでギアスを解かれてすべてを知ったアッシュが、最後に選んだ「サクヤのために、自分の意志を奪っていたギアスの力をもう一度受け入れる」という選択には心打たれた。
この物語に華を添えるのが、ちょいちょいゲストとして出てくる過去作キャラクターの存在。「思い出の作品からキャラが再登場するだけで喜んでしまう」というオタクの悲しいサガで、僕は誇張抜きで、過去作からキャラが登場するたびに劇場で息を呑んでいた。
個人的に「それを拾ってくるのかよ!?」と驚愕したのが、アーノルドがサイボーグに改造されて復活した際にちゃんと「こいつはかつてバトレーの集めたデータをもとに…」と言及されたバトレー将軍。
思わぬ登場人物への言及に、僕は劇場で思わずBRS(バトレー・リアリティ・ショック)を起こし、しばらくその後の話が頭に入ってこなくなってしまった。
良かった点を総評すると、本作は『反逆』へ原点回帰しつつも『反逆』のデッドコピーに終わらない独自の物語を構築することに成功しており、「換骨奪胎」を見事に成した作りはすばらしいものだった。
◆深刻な説明不足
このまま「『ロゼ』は名作だよ!全人類ディズニープラスで見ような!」とスッキリ〆られたら良かったのだが、僕は前述のように本作を楽しみつつも「手放しに褒めることはできないなあ」と感じている。
ここからは、僕が「手放しに褒めることはできない」と感じた欠点について述べていく。
第一に、本作はドラマを描くことに焦点を置きすぎたせいなのか、全編にわたって全く説明が足りない。
例えば、本作のキーポイントになる、北海道を覆うエネルギーの壁「シトゥンペバリア」。これは劇中では演出上で非常に重要な役目を持ち、
という設定があるのだが、劇中で説明されるのは最初の「この壁がネオブリタニアが独立を保てる最大の理由であり、黒の騎士団の北海道奪還作戦を阻んだ」ということだけ。
それ以外の説明はなく、最初から視聴者は「なんで空飛べるようになったKMFが地上で戦ってるの?」「なんで壁に触れたKMFは機能停止したの?」「KMFは機能停止したのになんでニーナたちを乗せた潜水艦は壁を通ってこれたの?」という疑問を抱えることになる。
自分の中で一番「それは説明してよ」と思ったのが、第2幕(4話~6話)に登場する、『反逆』の最終盤に登場した天空要塞・ダモクレス。ネオブリタニアは、ダモクレスの予備機と、戦後の処分を免れた核弾頭「フレイヤ」を持っている。が、このダモクレスが予備機であることは劇中で全く説明されない。
なので僕は第2幕の視聴中、ダモクレスが登場したときからずっと「ダモクレスは太陽に投棄されたはずでは?」「フレイヤは戦後処分されたはずでは?」という疑問が離れず、物語に全く集中することができなかった。
2幕までに比べて緩和はされるが、これ以降も説明不足は物語の最後まで続く。
「戦後『世界を好き勝手に侵略した悪しき国家の国民』として弾圧されたブリタニア人や、自身の故郷であった孤児院『ラベンダーホーム』を守るために、ノーランドを疑問視しつつもネオブリタニアに参加している」というナラ・ヴォーンの戦う理由などは本筋にそこまで関わってこないのでまだいい。
この物語の大ボスであるノーランドも詳細なバックボーンは外部メディアの解説頼りではあるものの、「『ラグナレクの接続』計画が長期化した時のために、若き日のシャルルを模し、老齢のシャルルのスペアボディとして作られたクローン」という出自や「『ラグナレクの接続』計画の予備プラン、という自分勝手な理由で自分という命を生み出した人類を生理的に嫌悪し、醜い生物である人類をこの世界から『駆除』したかった」というホワイダニットは語られる・推測できるので、終盤のドラマの理解に支障は出ないため許せる。
終盤で一番説明が足りていないのが、ノーランドが製造させて全世界に拡散させた、人類を殺すためだけに作られた兵器「ロキ」。ロキの脅威は大きなものとして描かれ、劇中で「このままでは、人類は3日以内にロキによって全滅します!」という絶望的な予測さえされるのだが、ロキの脅威に関しても全くの説明不足で、人間を「喰って」血煙に変えるビジュアルのインパクトは凄まじいものの、劇中の説明・描写だけだと「装甲が固くて倒しにくいロボット」にしか見えない。
なので、物語終盤、各国のパイロットがロキと戦う熱いシーンも「ブレイズルミナスとか輻射障壁とか持ってなさそうだし、ハドロン砲とか輻射波動とか撃てば倒せるんじゃないの?」「ていうかこいつら空飛べないし、飛び道具も持ってなさそうだし、フロートで空中から一方的に弾撃ち込めば勝てるんじゃないの?」と思ってしまい、いまいち乗り切れなかった。カレンの紅蓮特式が空中から輻射波動を叩き込んでロキの大群を一掃しているシーンが実際に描かれることもそれを助長する。
ちなみに、これら劇中で語られなかった情報のほとんどは各幕ごとのパンフレットにて解説されており、パンフを買えば解決できる…のだが、物語の本筋に関わらない事項(この場合はナラの戦う理由とか)ならともかく、シトゥンペバリアなどの本筋に関わる重要ポイントの説明を外部メディアに丸投げして劇中の説明を放棄する手法は、『ロゼ』に限らず作り手の技量不足を表明しているようなものなので、できれば滅んでほしい、というのが本音だ。
◆自己犠牲はほどほどに
もう一つの欠点が、本作は味方サイドの劣勢を覆す際に「自己犠牲」「特攻(カミカゼ)」という手段が多用されることだ。
自己犠牲・特攻という展開自体はいい。我々はフィクションで描かれる尊い犠牲に何度も涙を流してきた。だがこの「自己犠牲」という演出、簡単に視聴者から感動を引き出せる反面、多用されると、よっぽどドラマ部分が上手でないと一気に冷めるのだ。
覚えている限り、劇中で特攻・自己犠牲的な展開があったシーンを羅列する。
全12話で自己犠牲が5回!多い!!
7話の重護や最終盤のアッシュの自己犠牲はグッと来たものの、それ以外に関しては、特攻を行った人物の描写がいまいち薄かったこともあって「またそれ?」と冷めてしまう自分がいた。
◆一番許せないこと
最後にして、個人的な『ロゼ』最大の欠点が『反逆』の登場人物の株を下げるような描写があることだ。これはSNSでもかなりの賛否を呼んだポイントだ。
これは、『反逆』で育った人間として「気に入らない」どころの話ではなく、ちょっと許せない。
以下に、「『反逆』のキャラの株を下げたんじゃないの?」と思われる演出・シーンを羅列していく。
◇ルルーシュ、サクヤ放置問題
サクヤ(ロゼ)の絶対遵守のギアスは、『復活』のラストで「L.L.(エルツー)」と名を変えた後のルルーシュにより授けられたという設定だ。
だが、ルルーシュにギアスを授けたシーツーが献身的に(当初はルルーシュにコードを継承させて自分は死にたいという目的があったとはいえ)ルルーシュを支え続けたのとは逆に、ルルーシュはサクヤにギアスを授けたあとは完全に放置している。
いや、ギアスを授けたのは、自分と似た境遇のサクヤに同情したからというのはわかるし、ギアスがなければサクヤは目的を達することはできなかっただろう。でもギアスのせいでサクヤは自分を慕ってくれた北海道領民(シザーマンに連れてこられた囚人)を目の前で失い、改めてサクヤを助けることを誓ってくれたアッシュを失い、最終的に一生声を出せないという重い対価を背負ってしまったわけで、こうした事態を招かないために「ギアスの欠片探しは中断して、サクヤを見守る」ぐらいのことはしてよかった気がする。
あと、個人的には「最後の最後でサクヤの絶体絶命のピンチにルルーシュが駆けつけ、状況を打開して静かに去る」という展開を(勝手に)期待していただけに、中盤でファンサービス的に一回登場しただけ、という扱いそのものに少し不満がある。
◇ルルーシュ、ダモクレス&フレイヤ放置疑惑
一番視聴者の間で問題になったのがこれだろう。
前述の通り、ネオブリタニアはなぜか予備のダモクレスとフレイヤを持っていたわけだが、これは多くの視聴者から「ルルは自身の死後、戦争の火種になりそうな予備のダモクレスとフレイヤを放置したままゼロレクイエム決行したんかい!!」とツッコまれてしまった。
また、「ルルはダモクレス&フレイヤを処分する手はずなり命令なりを残してからゼロレクイエムを起こしたものの、後事を託された超合衆国・黒の騎士団の面々がそれに手こずってたのでは?」という擁護意見もあったものの、それはそれで超合衆国・黒の騎士団の面々の株が下がっているわけで、個人的には何のフォローにもなっていない。
◇スザク、ネオブリタニア放置疑惑
3幕~最終幕ではゼロを引き継いだスザクが引き続き登場する…のだが、彼は光和の世を目下脅かし続けているネオブリタニアを放置して、ジルクスタンで外交に励んでいる。
外交は大事だろうし、ノーランドの目的が「ロキによる人類の駆除」だなんて読めるはずがないので上記の2つよりは擁護できるものの、これには「出したら一発で事態が解決してしまう『枢木スザク』という鬼札を、北海道から遠ざけておきたかった」という制作サイドの「事情」が見え隠れしてしまう。
あと、真母衣波をランスロットカラーに塗り直したのは我々へのファンサのつもりなんだろうけど…制作陣はなんでランスロットが封印されたかを忘れたんだろうか。
ランスロットは悪逆皇帝ルルーシュに仕えたナイトオブゼロを連想させるから、戦後KMFの開発史から抹消されたんですけど!色を塗り直しても(アルビオンゼロ)そのイメージを払拭できなかったから、ゼロのイメージが強くて市井ウケするだろう蜃気楼ベースの真母衣波が開発されたんですけど!!それをわざわざランスロットを連想させる白色になんで塗り替えたんですかねスタッフさぁん!!!
◆総評
色々文句を言ったが、個人的にはイマイチいい印象のない『亡国』と比べると盛り上がる部分は多く、「ルルーシュ不在のギアス外伝作はいまいちハネない」という先入観を粉砕するぐらいには楽しい作品だった。
繰り返しになるが、原点たる『反逆』へ回帰しつつも『反逆』のなぞりに終わらない、換骨奪胎の物語を築いてみせた点において、スタッフ陣の手腕は見事なものだったと言える。それだけに粗が多いのが惜しまれる。
『復活』で文字通り復活して以降、『復活』以降のギアスの展開を担うはずだった『ギアジェネ』が沈没し、近年はソーシャルゲーム『ロストストーリーズ』になんとか支えられている印象の強かったギアスシリーズだが、『ロゼ』はそんなギアスの先行きの不安を吹き飛ばしてくれる、「新たなシリーズの門出」を担うにふさわしい作品だと言える。
設定的には「シャムナの死によりCの世界から『ギアスの欠片』が拡散し、コード保持者を経ずにギアスを獲得する者が世界中に現れた」らしい現在のギアス世界。ノーランドの野望は潰えたが、その設定を利用すれば続編・外伝はまだまだ作れそうだ。
幼少期に見た『反逆』が性癖の礎になった者の一人として、令和の世に復活を遂げ『ロゼ』で勢いをつけた『コードギアス』がどう羽ばたいていくのか、今後も見守っていきたい。
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