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「侍タイムスリッパー」本編以上に、製作過程が愛おしい映画。

どうも、安部スナヲです。

映画好きの知人から「侍タイムスリッパー、絶対観てください」と言われたのは、確か9月でした。

その知人というのは、年に数回仕事で顔を合わせる同業他社の人で、会えばいつも仕事そっちのけで、最近面白かった映画をすすめ合うのですが、このように内容にも感想にも触れず、とにかく観て!と勢い込んですすめられたのは初めてでした。

ならば早速と、その翌日に観に行こうとしたのですが、体調を崩してしまい、その時は断念しました。

そうこうしているうちに「しかし、それは今ではない」とばかりに「侍タイムスリッパー」は後回しになり、さすがにもう終映しているだろうと思ったら、なんと上映開始から3ヶ月以上経った今も絶賛上映中。

口コミで評判が広がったとはいえ、このロングランはまるで「トップガン・マーヴェリック級やないか!」と驚きながら漸く観て来ました。

【あらましのあらすじ】

幕末の京都。

会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)は、藩からの密命を受け、長州藩士・山形彦九郎(庄野崎謙)の命を狙っていた。

夜闇で刃を交えた最中、突如雷に襲われる。

しばらく気を失っていた新左衛門が目を覚ますと、あたりはスッカリ明るい昼間で、何処かの路地にいる…。

状況をつかみかね、歩き回りながら様子を窺うと、どういうわけかここは江戸らしく、しかも町人や武士に混じって、見たことない服を着た人たちが見たことない道具(カメラやライト)を仰々しく操っている。

そこは現代の時代劇撮影所。
新左衛門は時空を跨いでしまったのだ。

撮影班からエキストラと間違われた彼は、助監督の優子(沙倉ゆうの)に「あなたの出演作品は別の現場だと思いますよ」などと嗜められる。

出典:映画.com

なすすべもなく所内をウロウロしている内に機材に頭をぶつけて失神。。。優子に保護されて病院で治療を受ける。

病院を抜け出し町を徘徊する新左衛門は、壁に貼られた「幕末から140年」のポスターを見て、徳川幕府が終わったことを知る。

落胆した彼は、いっそ自害しようとするがうまく行かず、倒れ込んだ寺の住職に助けられ、そのまま居候となる

ある日、テレビで放送された時代劇を見た新左衛門は、ある行動に出て…

出典:映画.com

【感想】

この愛すべき映画に対してこんなことを言うのは心苦しいが、正直、鑑賞直後は後ろ向きな感想だった。

ストーリーはめちゃくちゃ面白いのに、一部の演技演出の古さとディテイルの甘さが自分にはムリなレベルだったため、マイナス印象に振れてしまったのだ。

それら不満要素は、自主映画だからとか低予算の問題ではなく、申し訳ないがセンスの問題、
もっとどうにかなったやろ!
と今でも思っている。

具体的に幾つかあげると、まず脇役の演技がひと昔まえのローカルテレビドラマや吉本新喜劇風で、どうにもいただけない。

敢えてのコメディ演出と言われればそれまでだが、あのような芸風を喜ぶのは、それこそお茶の間喜劇を好む一部の人たちで、映画ファンとの親和性はない。

最もさめたのは、新左衛門が殺陣会への入会を許されたか否かと気を揉む食卓のシーン。

新左衛門を気遣い、「すべる」「落ちる」を禁句にしようとするも、つい口走ってしまってアチャーというあのくだり。

あんなベタな「ネタ振り→オチ」の公式を今時使うとは…

で、深夜の商店街で新左衛門に絡んで来る不良少年が全員スカジャンを着ているのも時代錯誤甚だしい、しかも伸縮式警棒を持ってるとか「ビーバップ・ハイスクール」で時間が止まってんのか? 

あと、飲み会で撮影所の所長が頭にネクタイを巻いているのも、あんなの久しぶりに見ましたわ😂

とにかく、テンプレが古すぎる。

山口馬木也さんの謹厳実直な会津藩士振りが完璧なだけに、周囲のキャラクターとの落差がより克明になり、良くない意味で漫画チックに見えてしまった。

そんな具合で「ハナシが面白いだけにフラストレーションが溜まるな…」とほぞを噛む思いでいたのだけれど、劇場パンフレットを精読した途端、フラストレーションは一気に解消され、忽ちこの映画が好きになった。

まず、安田監督ご自身が書かれた、時代小説風文体のあらすじとプロダクションノートが読み物として面白く、グイグイ引き込まれた。

何より、金もかかるしいろいろハイリスクな時代劇映画を、安田さんが全財産を費やして(いや命を懸けてると言っていい)取り組んでいること、

脚本に惚れ込んだ東映京都撮影所が、慈愛としか言いようのない高待遇で協力してくれたこと、

何度も壁にブチあたり、挫折しそうになるたびにスタッフ、役者、関係者各位が我が身を顧みない献身振りで監督を支え、妥協のない制作を続けられたこと。

とにかく映画作りへの尋常ならざる熱量と覚悟に心を撃たれた。

出典:映画.com

この映画は、本編だけではなく、そんな製作過程もバックストーリーとして一体化させて見るべきだろう。

実際、これほどどこを切っても、まごころ!まごころ!まごころ!という製作裏話がそうあるとは思えないし、パンフレットに書かれた安田監督の文章から、ひとを楽しませよう感動させようという飽くなき心意気がビンビン伝わってくる。

ある意味、あんなふうに楽しんでパンフレットを読んだことはなかったかも知れない。

末文の日付が 「2024.9.28」となっていたのを見ると、あのパンフレットは映画が予想外の大ヒットを遂げてから、事後制作されたと思われる。

これもまた、まごころありきのマーチャンダイジング精神だな。天晴れ也!

出典:映画.com


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