海外の社会派広告の共感のヒントは制作プロセス‼Doveの事例から
広告炎上チェッカーとして、広告コンサルティングを行っている中村ホールデン梨華です。私は、会社員としての広告調査の経験と、イギリスでの市民広告プロジェクトを通して、広告を多く分析してきました。
ダヴの20 年にわたるありのままの美しさを見せるキャンペーン: AI の影響を乗り越える
Dove Code – AIキャンペーン
「AIにどんな美の基準をとりこませたい?」と問いかけるメッセージとともに、AIが示す美女とDoveが20年映してきた「本物の美」を対比させる広告。
20年「ありのまま」の女性をDove広告を通して見せてきたからこそできる対比画像といえます。
さて今回はDoveの社会派広告を作る過程を見てみます。
1.調査を徹底して広告制作に挑んでいる
2.専門家の意見を聞く
3.調査結果をもとにブランドポリシーを決める
調査結果をもとにいきなり広告を作る、ではなく、ブランドポリシーを確立させる、と一歩段階を踏んでいます。
また、昨今のDEI の流行りに乗っかっているのではなく、ブランドポリシー参考:
2024年4月17日の記事 https://campaignsoftheworld.com/tv/the-dove-code/リシーがDoveのやってきたことともつながりがあるということを社内で確認しているようです。
4.かかわった製作者に当事者意識がある
また、英国では、大きなキャンペーンや広告の場合、
制作会社、代理店、調査会社が名前を連ねることが一般的です。
つまり、「炎上した時に事なかれ主義に流れられない」ということです。
私自身、日本のいろんな広告企業や代理店、制作会社の方々とお話しする機会に恵まれ、キャンぺーンのプレスリリースを見ることもありますが、制作会社や代理店は名前を連ねるケースが少ないです。
「炎上したら代理店が、広告主担当者に一杯おごって終わり」みたいな話も聞きました。一方海外では、名前を連ねる習慣が、責任の強さにつながっているのかもしれません。
DEIを意識した企業広告の制作ポイント
A. 打算的でない
広告を作る際に、納期や利害関係などによって、十分に調査や制作に時間を取れず、「こんなのが作りたい」という最終案をもとに、その広告を作るための調査結果を持ってきたり、専門家に都合のいいことを言わせたりすることは、プロジェクトあるあるです。
特に時間や計画に誠実な日本では、その傾向は強く、結果、消費者の気持をくみ取れていない「うわべだけのDEI広告」になってしまいがち。
参考:自社での消費者意識調査をもとに広告制作にあたったが、広告公表後、女性から多くの批判を受けた柔軟剤の家事シーンを含む広告
しかし、Doveは、調査→ブランドの軸決め→企画・広告制作と慎重です。この方法は、プロジェクトマネジメントでは「遅い」「時間かけすぎ」などと批判されるかもしれませんが、
広告の質、消費者からの共感、企業ポリシーとの一致については共感・賛同されやすいと感じます。
私はイギリス大学院で、プロジェクトマネジメントやイノベーションのためのプロセスを学んでいたのですが、日本と大きく異なったのは、結果重視でない、打算的にプロジェクトを進めない、つまり、アジャイルであることことでした。
B. 多様な声を聴く
専門家監修、消費者調査など、企業内、業界内だけで広告を作らないことが重要です。
最近では、裁判員制度や都市計画、政策づくりなど「専門家でなく一般市民の声を聴く」ことの重要性がうたわれています。これは、トップダウンで決めるのではなく、社会の多様性を担保するための手法です。多様な声、とは当事者を含みます。
広告で言う当事者はターゲットであったり、商品に関心を示す人、広告に移される人です。
広告の炎上はまさに、「消費者と広告主の価値観のぶつかり合い」なので、広告制作でより多様な人(市民)の意見を取り入れられると、広告評価もUPします。
C.覚悟を決める
これは調査会社やブランドの最終意思決定者の責任ですが、最後にこの表現で、こんな批判が来たら、こう説明する、と多角的に考えた上でリスクを想定しておくことです。
これは企業の「アカウンタビリティ(説明責任)」という文脈で企業ガバナンスの文脈で語られます。
今回、私がこのDoveのAICodeキャンペーンに批判をするとすれば、アジア人の表象の欠落です。アジア人が一人も広告に出ていないのは、「ありのまま」といいつつ、Doveが無意識に米国のアジア人を透明化しているのではないか、という点です。
Doveが備えていれば、
・調査対象者にアジア人がいなかった
・Global広告ではアジア人だけにFeatureするから意図的にほかの人種を優先した
とか説明がなされるかもしれません。
ただ、この説明では、「アジア人消費者の共感よりも、ほか人種の共感を優先した企業」として消費者に認知されることに覚悟も持っておかなければなりません。
消費者に受け入れられる広告をつくるために
広告炎上や批判可能性を把握すること、メッセージを適切に伝える、適切に市民のリアルな声を聴くには、
社会背景や、ターゲットの傾向、感情など様々な要因を理解する必要があります。
広告評価や海外での広告展、市民参加型炎上広告のつくり直しプロジェクトを行った経験を活かし、企業向け支援を行っております。
もし自社広告、発信内容に不安がある方はお役に立てますので、ご連絡ください。
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