イギリス広告規制ルールー日本との違い解説
改善に繋がらない広告の炎上
日本ではTwitter上での広告の炎上が話題になることが多いですね。
公共広告で萌え絵が使われていたり、
女性の表象や男女の対比表現があったり。
度々広告のジェンダー表現が物議を醸してSNSで炎上する日本の状況とは反対に、イギリスでは、広告が炎上することは少ないです。
広告炎上が少ないだけではなく、炎上後の対応に失敗して企業イメージが悪くなることも少ないです。
イギリスで広告の炎上対策がしっかりしている理由について
広告規制ルールとその作られ方、監査機関の存在と役割、市民の役割に焦点を当てて説明します。
①広告規制機関
イギリスの広告審査機関の役割
広告監査機関(JARO)があり、市民からの苦情を受け付け、
内容、表現、広告の影響、掲載先の媒体の適正など、広告とその影響の良し悪しを審査します。
悪いと判断されれば、広告主に広告撤去を命じます。
基本的にはこの機関の権力の強さが、広告規制に一役買っています。
日本の広告審査機関
日本でも、JARO(広告審査機関)が存在し、苦情の受付と審査を行いますが、
審査対象は価格の表示や薬の効果の表示など誇大広告が中心で、
ジェンダー表現などの文化表象、動物愛護に関わる撮影上のガイドライン、子供や社会的弱者への影響などの倫理は対象となっていません。
広告に感動した、等の意見を募集するよりも、
ジェンダー表現などの文化表象、動物愛護に関わる撮影上のガイドライン、子供や社会的弱者への影響などの倫理について扱ってほしいものです。
https://youtu.be/2VnmHLB7AnM
広報用の動画でも広告の「嘘」がメイン。
実際に今までJARO(広告審査機関)が審査した広告を見てみても、
医療や食品分野での誇大広告だけで、倫理よりも法律を守る文脈が強いです。
イギリス広告審査員の構成と収益
広告審査機関は広告主への忖度が起きない仕組みになっています。
市民から苦情を受けた広告の功罪を決める12人の審査員は、偏りがないよう4人は広告業界から、8人は多様な業界から定期的に採用。
審査機関の運営の資金として、広告掲載料の0.1%を広告主が負担することで運営できているそう。1974 年にできたこのシステムは審査機関が審査費を徴収するのではないため、独立性が保証されています。
つまり、中国のような政府の規制でも、日本のようにメディア企業の力が強いわけでもない。
このように運営のための資金を受けとるのにも広告掲載先の媒体という第3機関を通して、広告主に対して忖度が起こらないようにしています。
一方で、2021年のイギリスの広告審査機関についての論文で、
『審査員によって忖度される傾向アリ』という報告がされており、
一層 厳しさを感じます。
日本の広告広告審査員の構成と収益
日本のJAROは会員企業からの会費で運営されているとのこと。
⺠間の団体であり、広告主が会員になっている場合は、判断に忖度が起きないのか、どのように対応しているかは描かれていません。
過去の審査事例を見ても、大企業の広告例はありませんでした。
規制やルール、政府のサポートがない中では
これが最大限の努力の結果と思われます。
②広告ルール
基本的に、多くの国では広告を規制するのは「自主規制」です。
自主規制とは、広告主は有志で倫理に配慮して広告を作ってくださいね、というスタンスです。
ある程度のルールは用意しておいて、
広告内容の責任は広告主にあり、広告が嫌われれば広告主の責任だよね、という考えです。ルールを破った広告主には罰則も処罰もありません。
日本の自主規制ルール
日本ではこの自主規制ルールが大まか(誇大広告はダメ、健全な広告を作ろう)です。一般社団法人 日本広告業協会が出している広告倫理綱領を見て見ます。
社会の信頼にこたえるもの、公序良俗に反するもの、品位、健全、等、
定義があいまいな言葉が多く使われています。
広告炎上ではこの曖昧さが物議を醸すので
何を健全とするのか、広告主が社会を考えているのか、という事がはっきり決まっていなければ、炎上予防としては機能しにくい。
イギリス:自主規制ルールが明確
日本の自主規制ルールとは反対に、
英国では広告内容のルールが詳しく具体的。
アルコール、薬物、タバコ、ギャンブル、暴力、車の運転、客体化、身体イメージ、子供、動物など広告が映す・扱うカテゴリごとにルールが示されています。
例えば、客体化についての項目では
・製品とは関係のない性的表現でモデルを使用すること、
・モデルの顔を隠し体に焦点を当てる事
などが禁止されています。
実際に、女性を不必要に客体化しており、ルール違反であると判断が下された過去の広告例も示されています。
特に、女性と男性の表現についてのガイドラインについては
とても詳細かつ具体的で
女性差別&女性の客体化を許さない態度が見えます。
https://x.com/EnjoCheck/status/1712044300677046456?s=20
あらかじめルールを明確にしておけば、広告が倫理に反するかわかりやすいという事ですね。
このルールの明確さが撤去指示を出しやすい事も要因になっています。
イギリス:ルールの決め方
因みに、このルールは誰が決めているのかというと
学術的な文献、監修の専門家の意見を元に作られています。
例えば、
動物を広告に使う時のガイドラインでは, 英国獣医師協会が監修して下記のようなルールを作っています。
他にも、専門家に意見を聞いてルールの制作、定期的な更新にあたっています。
例えば、ギャンブルについてのルールは、2014年に施行になりましたが、ギャンブル広告に関する学術研究結果を元に、2022年にルールが更新されています。
このように大学での研究結果を元に
随時ルールを更新していく事で、広告ルールが時代に取り残されないようになっています。
③広告周りの文化
イギリス市民は悪い広告を許さない?!
広告規制に真剣なイギリスですが、
その背景には、広告に対しての市民の厳しい目があります。
例えば、ADFREECITIESという団体。
違法広告を塗りつぶしたり、苦情を出したりするだけでなく、
「地獄バスツアー」なる、英国全土を回る、
市民に有害な広告に対しての反対運動も運営されています。
消費者に受け入れられる広告をつくるために
広告炎上や批判可能性を把握すること、メッセージを適切に伝える、適切に市民のリアルな声を聴くには、
社会背景や、ターゲットの傾向、感情など様々な要因を理解する必要があります。
広告評価や海外での広告展、市民参加型炎上広告のつくり直しプロジェクトを行った経験を活かし、企業向け支援を行っております。
もし自社広告、発信内容に不安がある方はお役に立てますので、ご連絡ください。