零れた声
耳の中で、
ふわりと、
何かが音を立てて
溶けていった。
気づいたら、
その音はもう
どこにもない。
過ぎ去った言葉は、
ただの影。
掴もうとしても
指先から滑り落ちて
二度と戻らない。
空気の中に
沈んだ記憶の泡が
今もふわり、
消えることなく漂う。
触れたら、
ほんの一瞬で
目の前から消えてしまう。
でも、
そんな空気が
好きなんだ。
何もないはずなのに
すべてがあるような、
目に見えない色が
静かに世界を満たしている感じが。
君の名前も、
あの場所も、
ひとひらの風のように
消えて、また戻る。
それでもいい。
忘れても、
また拾いに行くから。
世界の片隅で
たったひとつだけ
光を放つ言葉を
探し続ける。
それが、
私のすべてだと
言える日が来るまで。