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マッチングアプリで知り合ったお笑い芸人

これはホラーでも悲しい話でも何でもない。ただ、マッチングアプリで知り合った同い歳の某お笑い芸人とのエピソードである。

特に恨み辛みもないし、彼が犯罪行為をしたわけでもない。もう会うこともないから、ショートエッセイとして記念に書き記しておくことにした。

2年前のある日、某タップルで知り合った。めっちゃ人気なわけでもないけど、一部のコアなお笑いファンの中ではそれなりに知名度があり、渋谷や新宿を歩いていると顔を指されることがあるという1番厄介なタイプの若手芸人だった。本人もその自覚があるのか、それを良いように口説き文句に使ってきた。

「渋谷とか新宿で女の子と歩いてると後からDMで指摘されることがあるから、人目につかないような所で会いたい。」

いち同い歳の男がそんなことを言っていると思うと、倫理的にちょっとキモいなって思った。大谷翔平大先生も戌年だけど、この人も戌年なのかと頭でなんらかの計算をしている自分がいた。

とりあえず、「初めては食事かカフェにしましょう。」というように促し、某百貨店の洋食屋さんで食事をすることにした。

黙々と店主おすすめのビーフカレーを食べていた、私たち。話してみると意外にも落ち着きのある印象だったが、その会話のリリックにはありとあらゆる有名芸人たちの名前が出てきた。

Aメロ「ゆめっちと同期で〜」
Bメロ「男性ブランコさんが〜」
サビ「レインボーの池田さんが〜」
Cメロ「(渡辺)直美さんが〜」

そのリリックを刻むように、ビーフカレーが口に進むスピードも軽やかになってきた。店主おすすめなだけあって、そこら辺のファーストフード系カレーとは格段に味が違った。

やはり、女子人気の高いレインボー池ちゃんは強く押したかったのだろう。ひしひしとその想いは伝わってきた。レインボー激推しの私も、思わず食い付いてしまった。その他、カップリングで同世代の某R-1チャンピオンたちの名前が出てきた。

その落ち着きで隠された裏側にある、魂胆はもうすでに分かっていた。

食事が終わり、2軒目は近くのカフェに移動した。私が「アルコールアレルギーでお酒は飲めない。」と言うと、なんだか遣る瀬無い様子だった。その後もリズミカルに様々な芸人たちとのエピソードトークを盛り込んできたが、どっちがミーハーなのか分からなくなってきた。聞いてもないのに、次々と有名芸人たちの名前が出てくる。

もうそこには1軒目で魅せていた落ち着きはなく、「『前説』は終わってますよ。」とでも言わんばかりに「平場」を回していた。芸歴20年くらいのベテランMCばりに、意気揚々としていた。昼帯情報番組なんて余裕なんじゃないだろうか。

それが「その後」に持っていこうとするために刻んでいたリリックなのは、言うまでもなかった。もはや、若手芸人あるあるなのかもしれない。

彼の魂胆は丸見えだったが、話が止まらなかったので、その際に色んな芸人について質問してみることにした。長年のお笑いファン故、中々体験し得ない貴重な体験になったと思う。それはそれで、感謝している。

ちなみに、某タップルに登録した経緯は、男性ブランコのどちらかの奢りで「市場調査」という名目らしい。先輩からの奢りの市場調査で、堂々とリリック刻める若手芸人には、ある意味頭が上がらない所存だ。どんな平場よりも張り切っていたのではないだろうか。その調子で、来年の賞レースは決勝まで頑張ってほしい。

そして、お察しの通り、「その後」が起きることはなかった。

最後に私はこう切り出した。

「ダウンタウンの松本さんの『遺書』を読みたくてずっと探し周っているんですけど、読んだことありますか?」

「うん!やっぱり名作だよね!俺の家にあるんだけど読みに来る?」

私と同い歳の男の家に、私たちが生まれた年に発売された幻の『遺書』がそこにないのは分かっていた。古本屋で買っていたとしても、そのタイミングで、実家とは別の1人暮らしの家に置いてあるわけはない。

小学生レベルの作り話に微笑ましくなるわけはなく、その日はそれで解散した。

その後、特に身体の関係を持ったり付き合ったりすることはなかったが、何度か「また会いましょう」というような連絡がきた。しかし、日時や場所の詳細を決めたのにも関わらず、2回もドタキャンされた。

その後、彼は朧げな「遺書」を残して連絡をしてくることはなかった。奇跡的に生還していることを願う。

それとも、新しい平場で新しいリリックを刻んでいるのだろうか。男性ブランコのどちらかには、あらゆる平場でのエピソードトークをしているのだろうか。

私は、彼が売れるまでにこの遺書を後世に残そうと2年越しに書き記した。いつか、彼の名声と共に陽の光が浴びる時が来ますように。

私にも新しい平場(出逢い)が舞い込んできたらいいのになと、スタバでこのエッセイを書いている。最期に遺書男さながらのリリック刻んでしまった私に、スターバックスの女神様は微笑んでくれるだろうか。

P.S.
どこかの芸人さんの目に留まり、コメント頂けたら嬉しいです。また、読者の方で誰か分かった方はコメント下さい。

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