『同士少女よ、敵を撃て』の感想とレビュー|侵攻されるロシア側から見た戦争
逢坂冬馬先生の「同士少女よ、敵を撃て」を読んで。
(アガサ・クリスティ賞受賞作品)
同士少女よ、敵を撃ての感想とレビュー
視点が第二次世界大戦中のロシア、そのスナイパーを担う女性兵士という面白味が素晴らしく歴史的な事実を踏まえている為にどこか「本当にあったのではないか」と思わせている点も作品の良さを際立たせています。
細部に渡る戦闘描写が秀逸で実際にその場にいるような臨場感を与えてくれます。逆に言えばグロテスクな想像が苦手な方は一歩引いた目線で読む方がいいかもしれません。
登場人物の中にはロシアにおける最強と評されたスナイパーであるリュドミラ・パヴリチェンコも登場します。戦争物語をあまり知らない人でも聞いたことがあるかもしれません。映画「ロシアン・スナイパー」は非常に高い評価を受けたものでもありました。
『同士少女よ、敵を撃て』は単純なスナイパーアクションの作品ではありません。
「人を撃つ」「人を殺す」そのことに対する少女たちの動機、技術、心情が多方面に散りながら奮闘していく様子。ある種の冒険記とも捉えられますが、そこにあるロシアが女性兵士を使っていたという事実に向かうある種のフェミニズムとも取れる機微がまた作品を色濃く愉しませてくれます。
最後の最後まで男性という視点を持たず、なおかつそこに救いを求めない女性の強さ。人によっては「男を虐げすぎ」と言うかもしれませんが、人を一撃で遠方から葬るだけの存在になろうとする女性兵士の心情になり変われば分かる気もします。
そうしなければ生き残れない。
ある種の冷酷さを持ち、自らの本能ではなく、戦士として生き様を深層心理の奥底にまで深く刻んでこそのスナイパーなのです。
ドイツに攻め込まれる、侵攻されるロシアという視点にまた日本人はあまり知らない史実が含まれています。これもしっかりと調べ上げた上での作品になりますので「第二次世界大戦のドイツとロシア」という知識面の増強にも役立つ一冊になるでしょう。
是非とも手にとって読んでみて下さい。
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