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【植栽家の日常】会社の勉強会で日本園芸サイトの一端を振り返ってみたらとても面白かったのと、今、私がここにいる起源

毎週金曜日の午前中に社員勉強会を開催しています

私の会社では、毎週金曜日の午前中にスタッフ全員で集まり、1時間程度の勉強会を行っています。

私が各スタッフに蔵書の園芸書を1冊ずつ割り振り毎週1名が自分が担当した本の内容を皆に解説しさらに私が注釈を加えるという読書会形式の勉強会や、私が講師資格を有しているメディカルハーブやアロマテラピーのワークショップをする会、種まきや挿木など業務上の実践スキルの講習などなど、内容は多岐にわたります。

勉強会はもうかれこれ3年以上継続していて、私を含めスタッフ全員の園芸や植物に対する知識増強や価値観の共有に役立っています。ただ日々の業務を行うだけでなく、仕事の中に積極的に学びも取り入れていくと楽しい充実感が増しますよね。

私自身、発売当初に読んだきりになっている本を久しぶりにリマインドする良い機会になっていて、この勉強会を通して本という財産を有効に使える知識へと運用できているように思います。

「モウズイカのガーデニング狂時代」の時代

今回の勉強会のお題本は、私が無名の趣味園芸家だった2000年前後の日本の趣味ガーデニング界のわいわい楽しい熱気感を垣間見れれる一冊、「モウズイカのガーデニング狂時代」(2001年3月発行 絶版)を取り上げました。

引っ越しの時に大量の本を処分したのですが、この本はやはり学びが多く、取っておいてよかったー

私自身思い出深い一冊であると共に、若いスタッフたちにとっては、平成の日本園芸史に触れる上でもとても面白いと思って教材に取り上げました。

発売当時の時代背景を述べると、いまや空気のようにあるのが当たり前と思えるインターネットが一般レベルで急速に普及したのが1990年代。90年代後半頃からは、園芸の世界でも自身の庭の様子や植物などをネットで紹介する個人サイトが流行・濫立しました。

本書が出版された2001年頃といえばまだSNSもスマホもなくて、携帯のカメラの性能がまだ低くみなさん「デジカメ」でせっせと庭の写真を撮ってたような時代。

ブログ文化もまだ始まるか始まらないかくらいの頃で、個人サイトに付随している(いまや懐かし)「掲示板」で有名サイトオーナーさんと交流を図ったりできるのがめっちゃ楽しかったり、ちょっとしたステータスを感じられたりする。そんな時代でした。

勉強会では、30代前半以下のスタッフは、個人サイトの流行とか掲示板とかも知らない世代で興味津々の様子。そういう意味でも平成という時代を振り返る「園芸史」として本書を取り上げたのは正解でした😊

インターネット時代の園芸書の草分け

本書著者 モウズイカさんのサイト、本のタイトルとも同じ「モウズイカのガーデニング狂時代」は、2022年現在で40代半ば以上の園芸好きの方だったらたぶんみなさんご存知なくらい、2000年またぎのイングリッシュガーデニングブーム期において絶大なる人気を誇った伝説的個人サイトです。

現在では、モウズイカさんのもう一つの趣味である登山と山岳の植物写真の記録を中心に更新を続けていらっしゃるようです。遡るとガーデニング期の多くの記事も残っているので、興味のある方はぜひ見てみてください。現代でも役立つ植物・園芸に関する集合知のようなアーカイブです。大変貴重な記録と思います。

庭付きの自宅を建てたのを機にガーデニング熱に感染したモウズイカさんの四季折々の庭の様子を中心に紹介されているサイトです。いわゆるイングリッシュガーデンではなく、幼い頃に好きだった園芸図鑑からの知識や憧憬、登山と山岳の植物撮影もするバックグラウンドを持つモウズイカさん独自の植物観の効いた、失敗談も含めて実験心と遊び心とあふれる個性的な提言のある庭。それに加えて、秋田弁も交えて繰り広げられるモウズイカさんの植物愛のある語り口が園芸ファンの共感を呼びました。

かくいう私も、モウズイカさんの庭造りの思想にも多いに影響を受けましたし、モウズイカさんのサイトの中でも特に人気が高く、常にワイワイといろんな情報が投稿されていた「(今や懐かしすぎる)画像掲示板」に嬉々ドキドキ(※)しながら投稿していた当事者でもあります。
※モウズイカさんの掲示板は、植物に超詳しい論客の常連さんも多かったので、無名新参者の私には投稿のハードルがやや高く感じられた。

掲示板で交わされたトピックの中でも、盛り上がって内容の濃い情報が集まったスレッドは、モウズイカさんが後日まとめてアーカイブ記事にしたりと、サイト運営もしっかりしていらっしゃり、個人サイトでありながら最終的には植物の情報サイトとしても、相当内容が濃く深い巨星になっていきました。

気合いの入った園芸オタクから初心者まで巻き込んだ、情報の坩堝のような掲示板は「集合知」の様相を呈していて、おカタい園芸書などよりもものすごくリアルで実践的な知見が得られたりもしました。

本書は、大学教授など植物の専門家の著作ではない、ネット発の趣味の一般園芸家の人気サイト書籍化という、たいへん21世紀的な園芸書の草分けといってもいいでしょう。いやいや、今考えてもスゴい本でした。

では、本書内容の方に踏み込んでみましょう。

球根植物に注ぐ偏愛的眼差し

本書を通してみて改めて面白く思ったのは、モウズイカさんのお庭の植物セレクトは全植物的な平等な愛着ではなく、かなりモウズイカさんのバックグラウンドや個性を反映した偏愛性が垣間見られることでした。特に秋植え球根類。

子供の頃の私もそうでしたが、昭和の園芸書に愛着をもってる人にとって、当時は結構珍しくて、本でしか見ることができなかった小球根類を実際育ててみたい憧れって強いんですね。

そして、登山が好きなモウズイカさんにとって、春先の林床の風景を連想させる、カタクリ(エリスロニウムの仲間)やエンゴサク(コリダリスの仲間)、ニリンソウなどを連想させる小型のアネモネなどは、自身の植物観のルーツを象徴するものとして、シグナチャー的に使いたい植物だったのではないかと思います。私が思うにアピールとして意図的に多用していると思います。

もう何年も前ですが、モウズイカさんに実際お会いしたことがあったので、その時に訊いておけばよかったー。なんだか悔やまれます。

そして、園芸図鑑などでは紹介されているけど昔は流通がなく、写真でしか見ることができなかった、愛らしい小球根類、プシュキニアや原種チューリップなど。
ちょうど90年代の半ばくらいからガーデニングブームに乗って輸入球が園芸店にも並ぶようになり、手に入るようになりました。

当時は憧れを手に入れたような喜びをもってこれらの球根を植えていたんですよ。2022年現在ではこれらの球根も簡単にネットで手に入るようになりましたが、私見としては少しだけ植物が手に入りにくい環境の方が、園芸家の想像力と創造性は増すような気がしています。

そして、子供のお小遣いでは手が出にくかった壮麗な大型の球根類アリウムやエレム。これらはヨーロッパの有名庭園にも燦然とたくさん植えられる植物なので、イングリッシュガーデンブーム期の気運と、やはり園芸書でみたあの「高価な球根」植物が庭で咲いているのを見たい!という熱気を感じますね。当時の園芸好きな子供が大人になったら実現させたかった(プチ壮大な)夢のひとつですね。

↑は私が植えたチューリップ 'ロココ'の写真
球根植物好き且つ、そのセレクトで自身の植物感を伝える手法は、表現は大きくことなれど、私もモウズイカさんもとても似ていると思います。

現代にも通じるリーフプランツへの個性的解釈の先見性

もうひとつモウズイカさんの大きな偏愛項目として、花壇ならぬ「葉壇」と称してリーフプランツを中心に構成されていた庭の一角が、たいへん注目に値します。

さまざまなリーフプランツが容易に手に入り、ピィト・アウドルフさんの宿根草植栽が世界的に注目されるようになった2020年代であれば、この植栽は普通に受け入れやすいですが、↑の写真20世紀のものですよ。時代を読む先見性がスゴい!

現代でもこれだけキレイに植えられる人は少ないと思います。
そして、さらにすごいのが植物に対する柔軟な読解力・応用力で、たとえば南アフリカ原産のレアな美葉プランツ メリアンサス マヨールの読み替えとして、日本原産のカライトソウを用いたり、日本から発信する斑入り植物として山野草屋さんで手に入れた斑入りミズヒキを用いたりなど、当時にしてこの独創的な解釈は本当に素晴らしいと思います。私もとても共感・感動したページでした。

なにげにモウズイカチルドレンな私の園芸史

てな感じで、20年以上前に発行された本書「モウズイカのガーデニング狂時代」、2022年現在の園芸観からしても古びずに通じるスピリッツも強く感じられました。10年経つと古びるのが情報、10年経っても古びないのが知識とも言われますから、本書は普遍性のある知識の詰まった良書といえますよね。

そして実は、モウズイカさんのサイト「モウズイカのガーデニング狂時代」の掲示板は、私が園芸界に最初の足跡を残したデビューの場だったんですね。

ごく初期の頃、モウズイカ掲示板に投稿した写真の1枚
「春の庭は明るく生命の喜びに溢れるもの」という前提への
黒チューリップ、黒パンジー、青褪めた葉によるアンチテーゼ

前述のように論客の常連さんも多く、投稿するのに当時の私は勇気が要ったのですが、自分の園芸に対する考え方をやはり発信したくて、自分が撮った自庭写真をいくつか投稿したところ、モウズイカさんご自身から「最近掲示板に現れた○○さん(私)の植物観がとても面白い。この人は何者なのか」と評してくださり、なんだか出たての所から注目株になれちゃって、どちらかというとかなりマイノリティよりと思っていた自分の園芸に対する信念に強い自信を持てるようになりました。

こちらも私の園芸家デビューごく初期の写真。球根植物アリウム カラタビエンセの、あまり語られることのないリーフプランツとしての美しさとイタリア野菜のチコリやユーフォルビア ダルシス 'カメレオン'など、カラーリーフ図鑑には載っていない、カラーリーフによる表現

そんなこんなで、素人だし自分のサイトも持っていないただの投稿者の割には意外と注目される存在になれた私のその後ブログを開設、ブログで紹介していた自庭が雑誌「Garden&Garden」のオーナメンタルプランツ特集の表紙に使われたのを皮切りに、いろいろなメディアに掲載いしていただいたりしている内に、趣味だった園芸が職業になるにいたりました。

そして、「モウズイカのガーデニング狂時代」発行から17年後の2018年、私も自著「刺激的 Garden Plants Book」を発行することができました。

アマゾンのガーデニング部門1位になった人生の記念写真🤗


というわけで、いかに私が本書「モウズイカのガーデニング狂時代」に深い影響を受けていて敬愛していたか、モウズイカさんが私の園芸人生の舵をきった偉大な先輩であったことを改めて実感・再確認した勉強会レポートでございました😊




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