新世界東映『網走番外地』|徐々に奇妙な映画体験
2年前(2021年)、大阪旅行に行った時の話。
高校時代にも家族旅行で大阪に来たことがあり、通天閣の周り…いわゆる新世界を色々回った。
うちは遠方への家族旅行はなぜか滅多にホテルを予約せずに車中泊で過ごしていたので、どこか分からない場所で車中泊したことが最も記憶に残っている。
大人になった今になって一人で行ってみようと思った。新世界東映というディープな映画館があると前々から聞いていたので、わざわざそこで映画を観るために大阪旅行に行った。
しかし、以前に新世界に来た時には映画館があったなんて気付かなかった。
当日は熱海で土砂崩れが起こったあの日で、名古屋駅は東京方面の新幹線が止まってしまってパニックだった。幸い、大阪方面の新幹線は動いていたので問題なく到着した。
早朝9時30分の新世界。開店前で人通りも少ない。
通天閣に真っ直ぐ向かう途中、右に曲がると新世界東映はあった。
「ここか!」
もう少し進んでいくと新世界国際があった。Twitterでバズッた看板のインパクトある宣伝文句が見えた。
「時短要請でナイター断念!!怒り狂う野郎達激闘傑作集!!」
まだシャッターが閉じていたが、並んでいる人がチラッと見えた。
新世界東映に戻って、この日は『網走番外地』と『続網走番外地』の二本立てを上映していた。
少し入りにくい感じもあったが、階段を登って入場していった。
上映が始まった。高倉健さんの主題歌『網走番外地』が流れて映画本編が始まる。
映画も中盤に差し掛かった頃、獄中でのシーン。囚人たちが脱獄を企て、ついに決行当日。田中邦衛さんが腹痛を看守に訴える場面だった。
たしか看守が「待っておれ」と言った直後、場面は雪の中に変わった。何が起こった?
脱獄囚たちを捉える捜索隊が結成されたという台詞。なるほど脱獄に成功したのか?
いや、これは上映フィルムの流す順番を間違えたのだ。
周りの客は何も言わずに黙ってスクリーンを見つめている。映写技師も気づいているはずだが、そのまま映画を続ける。そして自分も違和感を覚えたものの黙って観ている。
その瞬間、なんだか異様な空間だった。
途中から入ってきたお年寄りが「ハァ〜、しょうもな、しょうもな」とブツブツ呟きながら席に着いた。
自分はいつも行く岐阜のロイヤル劇場を思い描いて比べていた。同じ名画座でも館内の雰囲気や客層がだいぶ違う。途中から他の客に絡まれたりしないか段々と怖くなった。
その後、しばらくして雪の中からまた獄中の場面に戻った。嵐寛寿郎さんが「鬼虎」の正体を明かし、脱獄は失敗に終わる。しかし、網走刑務所からトラックに乗せられて移動した合間にトラックから飛び降りて脱獄するという流れ、そしてまた場面は飛んで雪の中。これで元の順番に戻った。
このようなハプニングはフィルム上映ならでは、ある意味で貴重な体験をした。怖い思いもしたけど来てよかったなあと思った。
次の日、名古屋を経由して岐阜のロイヤル劇場に行って『喜劇 とんかつ一代』を観た。
落ち着くなあ、まるで『オズの魔法使』のラストみたいだ。やっぱり映画はロイヤル劇場に限る。
お後がよろしいようで。終
○おまけ
ネットオークションで、昔の新世界に存在していた二つの映画館が写った絵葉書を入手した。新世界大映では『兵隊やくざ 俺にまかせろ』、新世界松竹では『宇宙大怪獣ギララ』の広告が見られるので1967年頃と思われる。
自分が撮影した写真と画角を合わせて比較してみた。
画面左手前の「づぼらや 新世界本店」や、左奥の「麻雀 ニューマルコ」の看板が共通している。現在の「づぼらや」は閉店しているようだが、比べてみると面影が残っている事に気づいて感動した。
参考程度ではあるが、新世界大映・新世界松竹の大まかな場所も把握できたので良かった。
また新世界に行ってみたいと思うこの頃。