『シン・仮面ライダー』NHKドキュメントから考えるアクションのルーツ【ネタバレ注意】
NHKBSプレミアムで放送された『シン・仮面ライダー』のドキュメント。
映画本編の感想も賛否両論ながら、撮影現場を映したドキュメントも賛否両論という…
今回のドキュメンタリーに関しては、共感できる部分は賛でもあるし、否でもある。
①庵野監督の撮影進行に対しての共感と疑問
学生時代に自主制作映像のアクション撮影に挑戦した時のことを思い出した。
動きを決めすぎるとリアリティが出ないという考えや、実際に演じる俳優にある程度アクションを委ねるなど、自分もやっていたから多少の共感は出来る。
しかし、この手法が通用したのは素人同士、仲間内の自主制作だからである。一歩間違えれば行き当たりばったりになって撮影が止まってしまうわけで、その道のプロフェッショナルを揃えた商業映画としてはどうなんだろう?と思わせるような部分もあった。そこが他の視聴者が感じた否の部分になるのではないかと思う。
それと庵野監督と過去の名監督との作品の拘りを比較する意見について、黒澤監督の拘りで有名な『七人の侍』の墨汁の雨、『用心棒』の砂煙や『椿三十郎』の赤い椿、『天国と地獄』の民家などのエピソードは緻密なプランあってこそだった。庵野監督の場合は、漠然としたプランにスタッフが振り回される様子にしか見えなかった。
この手法を取っていたのは、監督自身のアクションに対する技量の無さを他人に押しつけてしまったという見方もできる。(学生時代の自分自身への自戒も込めて)
②「殺陣」と「技斗」
アクション監督の田渕景也さんの実践したアイデア、ワイヤーアクションやトランポリンを使ったアクションは魅力的だった。それは伝統的な「殺陣」と「技斗」の継承を感じたからだ。
仮面ライダーシリーズを支えたアクション集団には、ドキュメンタリーにも名前が出た大野剣友会やジャパンアクションクラブがいたが、往年の「殺陣」と「技斗」を支えた方々について紹介していきたい。
○日活技斗部
自分にとって馴染み深いのは、時代劇の「殺陣」に対して現代劇のアクション演技として「技斗」を考案したと言われている殺陣師・高瀬将敏さんの日活技斗部。主演を張る石原裕次郎さんや小林旭さんを支えたアクション集団で、後に高瀬道場を創立した。
○東映剣会
東映の場合は、同時期から東映剣会があったことが確認できる。殺陣師の足立伶二郎さんをはじめとして、現代に至るまで東映京都の時代劇を支えている。
○ニュー東映拳友会
東映東京では、殺陣師の萩原満さんを中心とするニュー東映拳友会があった。ここで器械体操を取り入れたアクションを指導していた当時の若手スター千葉真一さんは、後にジャパンアクションクラブを設立する。
これらの記事にも見られるように「殺陣」と「技斗」、つまりアクションの出来は「斬られ役」で決まるという話を聞いたことがある。
東映映画で有名な方と言えば「5万回斬られた男」福本清三さん。主役を引き立てる重要な役割を果たす「斬られ役」。つまり主役の”アクション”に対してどう”リアクション”するかが作品を面白くすると自分も考えている。これは『仮面ライダー』でも同じだった。
そもそも東映という会社はGHQのチャンバラ規制から戦前からの時代劇を再興しようという成り立ちであった。また、日本映画(時代劇)の基を遡れば歌舞伎があり、映画にもその様式美や見得が取り入れられた。後の『仮面ライダー』はじめに東映特撮ヒーローは時代劇の下地があってこそのはずだ。
庵野監督に対して、同じく黒澤明監督の殺陣を引き合いに出している方がいた。自分の好きな黒澤映画『用心棒』の三船敏郎さんは、確かに東映時代劇の殺陣とは違うスピーディに敵を叩っ斬る演技が斬新であった。
しかし、庵野監督の考え方を変に曲解して伝統的な時代劇(殺陣)を否定する「ただの段取り」「戦闘風ダンス」と下げる意見が見られたのは複雑な気分で、旧作映画ファンとしては悲しいことだ。
申し訳ないが、アクション監督の田渕景也さんはドキュメンタリーまで存じ上げなかったが、伝統的な「殺陣」と「技斗」を尊重する姿勢は嬉しく思った。…実際の本編では使われていなかったが。
③「SFX」と「泥仕合」
前回に『シン・仮面ライダー』は『仮面ライダーZO』と比較すると面白いということを書いたが、ドキュメントを踏まえると益々そう思わせた。
『仮面ライダーZO』のアクションのルーツは『ターミネーター2』、ハリウッドで最先端のSFX/VFXを取り入れたと書いた。
自分は、『ターミネーター2』の関係者へのインタビュー・メイキング映像を放送した『平成ふしぎ探検隊』(制作:朝日放送)という番組の録画を持っている。『仮面ライダーZO』DVDの映像特典に収録されているメイキング映像も視聴した。
どちらもワイヤーアクションや模型を使ったSFX/VFX(特撮)アクションで、今でも面白く感じるクオリティの高い作品だと思う。
対して『シン・仮面ライダー』(庵野監督のいうリアルな殺し合い、泥仕合)のアクションのルーツは『仁義なき戦い』のような深作欣二監督作品ではないかと思った。
『仁義なき戦い』シリーズは時代劇が栄えたのちの時代の東映作品で、任侠映画とも違うドキュメンタリーチックな映像が「実録ヤクザ映画」と称された。庵野監督のいう「段取り」とは違った本気の殺し合いを撮りたいというのは、もしかしてこれなのではないのか?
本編終盤の0号戦での泥仕合での手持ちカメラを平衡ブレブレでリアリティな映像を撮るという手法も『仁義なき戦い』シリーズでよく見られた。
新しい手法を模索したつもりが、既に有名な作品が取り入れていた「車輪の再発明」だったのかもしれない。
しかしながら終盤のアクションは、やはり東宝のシンゴジ・ウルトラではできない、ハリウッド流でもない、東映映画らしいアプローチであったと再確認した。
④まとめ「繋がっていないアクション」と「CG」
庵野監督は映像で「仮面ライダーの魅力は「戦闘の段取り」を飛ばしたこと」「全然つながっていないアクション、それがカッコいい」と話していた。
映画技法の書かれた『図解 映像編集の秘訣』という書籍では、『仮面ライダー』シリーズ他、東映特撮ヒーロー番組の編集を務めた菅野順吉さんが、この辺りの「特殊編集」について解説されている。
このように『仮面ライダー』のアクションは、”上伸び”(手を伸ばした状態で上昇)、”スワン”(後方宙返りの一種)、”前宙”(前方宙返り)、”トバサレ”(キック等を浴びて、飛ばされること)など一見独立した複数のカットを「特殊編集」によって一つのアクションとして成立させている。
これが独特な「「戦闘の段取り」を飛ばした」「繋がっていないアクション」の秘密と言えるだろう。
まったくの余談ではあるが、自分は『電子戦隊デンジマン』第1話で初めて必殺のデンジパンチを打つカット割りが大好きで、録画を何度もコマ送りで見るほどだ。
なぜカッコいいのかを自分なりに研究してみたが、ポイントは②のカット。①③④だけでもアクションとして成立するのだが、②を一瞬挿入することで「デンジパンチは大鎌を一撃で叩き割る程の威力がある」と、言葉でなく視覚的に示しているところだと思う。これは初めて放つ必殺技を印象付けるのには効果的だ。
③ではパンチの合間をおそらくコマ抜き編集していてスピード感があり、まるで画面からパンチが飛び出てくるような演出になっている。
このように昭和特撮の複数カットから構成されたアクションにも細かい工夫が凝らしていることがわかる。だから庵野監督の言う「「戦闘の段取り」を飛ばした」「繋がっていないアクション」のカッコよさも分かる気がする。
映画本編を観た方は気づいただろうが、ドキュメントで映った映像はほとんど使われていない。実際はCGやモーションキャプチャーに置き換えられていたり、そもそもボツになったシーンもある。
自分は昔はCG否定派だったが、自分が好きな『仮面ライダーX』のXキックをCGを使ってワンカットで表現した映像を観て思い直した経験がある。
CGだから悪いというわけでもないと思う。
ただ一つ言いたいのは、ドキュメントのなかで田渕さんの語った「僕が思う「カッコいい」と(監督の)感覚が違う」というコメント。これは記事で示したようにアクションに多様な表現があり、どちらかが優れていてどちらかが劣っているというわけではない、ということだ。