阿部

殺し屋未満

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最近の記事

ハグ男

まだ若かりし頃の話。 おれと、先輩のSと、同期のOは、あまり先輩とか後輩関係なく仲が良かったんだ。その日、俺たちはいつものようにOの家で飲んでいたんだけど、Sは付き合っていた彼女に振られたとかで、かなり荒れていた。 同じような思い出話を何回も繰り返したかと思えば、急にメソメソ泣き出す始末。仕方ないから、おれが一つ背中でも叩いて元気づけてやろうかと思ったとき、Oかふいに、 「さみしかったらハグしてもいいですよ、それ以外は一切だめですけど」 と言いだしたんだ。 Oは普段そう

    • 過去の川柳(サルベージ)

      多分A明日BならやつはC 歯ブラシを眺めて泣いた夜もある 本当はラッパーになりたかった ていねいなしらない人の顔写真 風邪の花なにか英語の飲みものを お父さん好きな言葉はさようなら ししゃも食うきれいなきれいなお姫さま 汽車を待つ人の隣で汽車を待つ カーネーション、赤、赤、赤赤々。 窓の外はあらゆる事の起こりうる 好きだった歌を忘れた四畳半 捨てちゃだめ干ししいたけの戻し汁 死刑囚みんな産まれたばっかりだ 青い火を発明した日の子供たち 12本脚があるから机かな? 捨てて来たは

      • 世界一受けたい授業 一時間目 国語 『MajiでKoiする5秒前』を題材に

        授業をはじめます。 この詞を読む前にまず時代背景として知っておきたいのが、"MK5" というコギャル語の存在です。これは「マジ(maji)でキレ(kire)る5秒前」を意味します。『Maji でkoiする5秒前』というタイトルはこれを踏まえています。 作中でも、 "Maji でkoiしちゃいそうな約束の5秒前" "Maji でkaiたラブレター渡すその5秒前" "Maji でkissをくれたのは門限の5秒前" "Majiでkonya 眠れない真夜中の5秒前" と"MK

        • 阿沙のリレー/洒落川俊太郎

          カムチャッカの若者が 夢の中の鳥居を潜るとき フィラデルフィアの旅客機は 朝もやの中で消息を絶っている カサブランカの蓮が 一斉に咲き乱れるとき 匣の中の少女は 頬を染める西日に瞬きする この地球では いつもなにかとなにかが繋がっている 境界から境界へと 寝る前のひと時 耳を澄ますが良い そこで聞こえてくる音は 真実の伝播に 時空の隔たりは問題にならないという証拠なのだ

          こんな夜はアツアツに熱したファラリスの雄牛を眺めながら鋼鉄の処女と洒落込みたいねぇ…

          こんな夜はアツアツに熱したファラリスの雄牛を眺めながら鋼鉄の処女と洒落込みたいねぇ…

          こんな日はあったかいスープにパンと洒落込みたいねぇ…

          こんな日はあったかいスープにパンと洒落込みたいねぇ…

          石坂浩二はテレビ界にとって何者だったのか

          石坂浩二は、もしかしたら映画に詳しい人にとっては市川崑監督の『犬神家の一族』などで主演を務めた名優というイメージなのかもしれないが、自分にとっては俳優というより『開運!なんでも鑑定団』などに出演していたテレビタレントとしての印象が強い。 鑑定団がお宝の鑑定をしている様子が独特のBGMに乗せて流れる数秒間のダイジェスト映像の中で、鑑定団に混じって時々意見を言っている様子の石坂浩二を記憶している。音声は編集されていたのでどんなコメントをしていたのかはわからないが、石坂浩二は書画

          石坂浩二はテレビ界にとって何者だったのか

          ミームのリレー/ツイ川俊太郎

          京都の若者が ちいかわの夢を見ているとき 不眠症の娘は 朝もやの中で返信を待っている メガネの女子中学生が ほほえみながら銀魂を読むとき 出会い厨は 盛れてる自撮りにウィンクする この地球では いつもどこかで界隈が生まれている ぼくらはミームをリレーするのだ 界隈から界隈へと そうしていわば集合知でインターネットを作る 眠る前のひととき耳をすますと どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴っている それはあなたがくねくねしている朝に 誰かが働いている証拠なのだ

          ミームのリレー/ツイ川俊太郎

          カスのカフカ寓話集より『気がかりなG』

          質問 引っ越したばかりの家にGが出ました。新築なのでそういったことはないと思っていたので、ショックです。不動産の仲介業者に確認してもそこまでは補償できないの一点張りです。実際は大して害がないと言う人もいますが、気持ちが悪いです。枯れ葉のように平べったい体で家中をかさかさ動きまわります。「なんて名前?」と聞くと、「Gだよ」と言っていました。「いつからうちに住んでたの?」と聞くと「住所不定」と笑います。Gの声は枯れ葉がかさかさいう音のようで耳障りです。私が死んだ後もGがこの家で

          カスのカフカ寓話集より『気がかりなG』

          ツイッタラーの墓(2分20秒版)

          あるところにひとりの男がいた ツイートを書いて暮らしていた ある日ひとりの娘が男のもとを訪ねてきた
 ツイートを読んで会ってみたくなったのだ
 男はひと目で娘が好きになって
 すぐにすらすらとツイートを書いて娘に捧げた その日から娘は男と暮らすようになった
 娘が朝ご飯を作ると男は朝ご飯のツイートを書いた
 野苺を摘んでくると野苺のツイートを書いた
 裸になるとその美しさをツイートに書いた ある夕暮れ娘はわけもなく悲しくなって
 男にすがっておんおん泣いた
 その場で

          ツイッタラーの墓(2分20秒版)

          過去の短歌

          ただ単に痛みを止めるだけでなく笑顔をくれる薬があった 09035937970は残酷さなくなれ 入力が数値的に見て特異です。逆行列が求まりません。 「『神秘』とは、『貨幣』が『ある』ことなのである。」(岩井克人『貨幣論』より) 足音を立てないように上靴のかかとをつぶして履くのはやめた 透明できれいなコップありました。「清潔そうですね」「そうですね」

          過去の短歌

          カスのカフカ寓話集より『入国審査』

          アメリカから一人の男がやってきて、入れてくれと言った。門番はお前はどこから来た、と尋ねた。男はパスポートを示して、アメリカだ、と答えた。 「証明して見せろ」 審査ゲートは開いたままだったので、男は中を覗き込んだ。門番はそれを見て、 「中が気になるのか。しかし、勝手に入ろうものならすごい力持ちの警備員に拘束されるぞ」 と笑う。 男はアメリカのパスポートが通用しないとは、と思った。それから毛皮のマントを身につけた門番の大きな鷲鼻と蒙古髭を見て、大人しくしたがったほうが良さそうだ、

          カスのカフカ寓話集より『入国審査』

          ヘラ健壱『ネットポエット』

          C   F    G TikTokで踊るより簡単だから C   F    G ネットポエット選んだわけじゃない C   F    G Instagramで自撮りを盛るよりも C   F    G 楽しいからってポエったわけでもない C   F    Am 目の前の吊り革に掴まるお姉ちゃん F   C   G あんたの手首のそいつはリスカ痕だろ C   F   G おいらもあんたの年の頃 C   F    G そいつにすっかりタマシイ抜かれてサ C   F   

          ヘラ健壱『ネットポエット』

          ツイ川俊太郎『ツイッタラーの墓』

          ある所にひとりの若者がいた ツイートを書いて暮らしていた 眞子さんが結婚すると小室圭ネタのツイートを書き 誰かが死ぬとR.I.P.をネタにするツイートを書いた お礼に人々はいいねやリツイートをした なかにはリプライやDMをする者もいた 男にもちゃんと名前があったが 誰も名を呼ばずに男をハンドルネームで呼んだ 初めのうちは恥ずかしそうにしていたが いつか男はそれに慣れてしまった 人々は何やかやと男に問いかけた 「ちょww何食ったらそんな発想が出てくるんだよww」 だが男

          ツイ川俊太郎『ツイッタラーの墓』

          イカプル

          イカプル

          四季にしろ十二支にしろ、もともと連続的に捉えられていたものを適当に離散化しただけで分類完了みたいなツラしてるの本当にむかつく。それがありなら俺がお前を殺すのもありなんだが?

          四季にしろ十二支にしろ、もともと連続的に捉えられていたものを適当に離散化しただけで分類完了みたいなツラしてるの本当にむかつく。それがありなら俺がお前を殺すのもありなんだが?