ハグ男

まだ若かりし頃の話。

おれと、先輩のSと、同期のOは、あまり先輩とか後輩関係なく仲が良かったんだ。その日、俺たちはいつものようにOの家で飲んでいたんだけど、Sは付き合っていた彼女に振られたとかで、かなり荒れていた。

同じような思い出話を何回も繰り返したかと思えば、急にメソメソ泣き出す始末。仕方ないから、おれが一つ背中でも叩いて元気づけてやろうかと思ったとき、Oかふいに、
「さみしかったらハグしてもいいですよ、それ以外は一切だめですけど」
と言いだしたんだ。

Oは普段そういうことを言うキャラじゃなかったから、おれは最初冗談かと思って笑い飛ばそうとした。でも、SはOに抱きついて、オイオイ泣き出したんだ。

おれは、なんとなく居心地が悪くなって、終バスの時間を言い訳にして、二人をそのままにして家に帰ってしまった。

今思うとそれが良くなかったのかもしれない。

次の日、Sに会うと明らかに様子がおかしかった。特になにもしていないのに
「ハッ、ハッ、ハッ…」
と一人で笑っているんだ。おれが、
「やっぱり昨日Oと何かあったのか?」
と内緒話をするように顔を近づけたとき、分かった。Sは
「ハッ、ハッ、ハッ…」
と笑っていたんじゃなくて、
「ハグ、ハグ、ハグ…」
と言っていたんだ。

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