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アリス・マンロー『善き女の愛』

ノーベル賞受賞の”短編の女王”による本作は、その名に恥じない傑作だった。

8編の短編が収められているが、分量以上の重みがある。それは登場人物達の人生がしっかり描かれているから。

どうしてこんな限られた記述で、その人の暮らしぶりや生活の重みがこんなにずっしりと鮮やかに描けるのだろう?

例えば、表題作”善き女の愛”。

訪問看護婦と彼女が担当する終末期の女性患者とその夫がメインの登場人物なのだが、それ以外の人物(例えば、冒頭で沼に沈んだ自動車を発見する三人の少年)にも、きちんと焦点が当てられている。
たった数行の描写に過ぎないが、その子たちが置かれた家庭の環境の違いやその年頃の少年達の恐れ、羞恥、自負心なども、手に取るように伝わってくる。

他の物語でも同様だ。

子どもから老女に至るまで全ての人物がそれぞれの時間の中で今を生き、そして、これからも続く人生の重さ、暗さ、不安と微かな慰めを感じながら生き続ける。

物語では、ある場面を切り取ってはいるが、その前の時間の重みと、その後に続く人生の重みがずっしりと読み手に残されるのだ。

誰もが自分の人生の主人公でありながら、世界はそんな自分を置き去りにして廻ってゆく。
この本は、そんな哀しさこそが、人生そのものなのですよ、と教え諭しているかのようだ。

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