【最も尊いのはBill Nighy のまばたき】
それをまず、高らかに宣言したい私なのであります。
※まだ公開中の映画について書きますので、これから見る予定のある方は
その点、ご留意いただければと思います。
マイ・ブックショップという映画を観ました。本が好きなこと、そして
イギリスと聞くと血が騒ぐということでワクワクしていたのです。
舞台は戦後のイギリス、小さな町で一人の未亡人フローレンスが、これまでその町に一軒もなかった本屋を開きます。本は彼女と亡くなったご主人を
つなぐ大切なもので、彼女はなんとか開店にはこぎつけるわけですが、
そこはあくまでも保守的で閉鎖的な町。【新しいこと】を始めようとする
彼女に、手を変え品を変え、度々【そのままでいたい人達】の魔の手が
襲いかかります。
最終的には彼女の夢は道半ばで閉じることを余儀なくされるため、
完全なるハッピーエンドかと問われると大きな声でその通り、とは
言えません。ただ、ほんの小さな希望のかけらが未来に持ち越されたとは
言えるでしょうか。そういう意味で言ったら、フローレンス個人にとってのハッピーエンドではありません。でも社会として、本(とブックショップ)という大きな枠組みとしてのハッピーエンド、とは言えるかもしれません。
映画の中に出てくる、フローレンスや、彼女の本屋を手伝う合理的な
思考の持ち主の少女(本屋を手伝ってはいるが、フローレンスと彼女の本屋という心地よい空間が好きなだけで読書は嫌い)クリスティンの洋服が
これまた素敵なのです。その柄のワンピースに緑のカーディガン着るのね!とか。フローレンスの部屋の内装もグッときます。
ウィリアム・モリス最高。
この映画を観ていると、人のまなざしってホントにその人間の本質を
語るよなぁと思うのです。あらゆる力を総動員してフローレンスの本屋を
潰そうとする町の権力者ガマート夫人が、穏やかに見える佇まいの中で
微笑みながら見せる眼差しはヘビだし、ロンドンのBBCで働いている
「自由人」「進歩的思想の持ち主」"気取り"のマイロ(フローレンスに
協力すると見せかけて口当たりのいい言葉を色々語るが最終的に裏切る)は、クリスティンに「イタチみたい」と陰口を叩かれます。
そのクリスティンは、複雑な世界を見透かし射抜くような鋭い眼差しと、
信頼しているフローレンスへ向ける柔らかな目を使い分け、
当のフローレンスは穏やかな視線の奥に揺るがない意思と本への思慕や
愛をたたえています。
そして、冒頭の宣言の通り、私がこの映画で最も尊いと思ったのは、
エドモンド役のBill Nighyです。(すみません。ちょっとイギリスの
じいちゃんに対する思いの強さで、偏りが見られるかも……)
本のやり取りを通じてフローレンスと交流を持ち始める、偏屈で
(と噂されている)大きな屋敷に引きこもっている老紳士を演じています。
彼はフローレンスにお薦めの本を届けてもらい、彼女もまたエドモンドに
本を愛する人としての意見を求めます。そんなほの温かい交流が何度か
続いたある日、彼が誰も招いたことのない大きなお屋敷へフローレンスを
お茶に招待した際、その【まばたき】はほんの一瞬だけ顔を出します。
彼のまなざしは、本に対するもの、また本という共通項を有する同志に
対するものとして、静かに深く注がれます。
でも、そこには単にそれだけでない、彼が言うところの「忘れたと思って
いた気持ち」が漂っているのがわかります。フローレンスがケーキを
切り分け、紅茶を注いでいる間、目が合ってしまわないようにそーっと様子を伺うエドモンド。そしてフローレンスがエドモンドを見たときに、
スズメのようなつぶらな瞳で一度だけぱちくりとまばたきするのです。
もう、そのまばたきだけでご飯が3杯は食べられます!(鼻息が荒い)
人によっては、物語の終盤でエドモンドが見せる「崇高な意思表示」に
よりぐっとくるかもしれません。
でもやはり私のオススメは、彼のまばたき、まばたきなのです。
女性には到底表現できない、男性ならではの純粋な心の発露だなぁと
心がじんわりします。エドモンド、いやBill Nighy、素敵すぎるぜ。
余談ですが、本屋の棚を設置してくれたり、エドモンドとフローレンスの
間の本や手紙のやり取り、フローレンスと弁護士間の書簡のやり取りを
手伝うボーイスカウトのぽっちゃりメガネ男子(私はぽっちゃり男子も
好き)もいい味出してます。(名前は忘れました)ジブリアニメ、魔女の
宅急便に出てくるトンボをちっちゃくして丸くしたような感じで。
あと、フローレンスが加賀まりこかな?と思える瞬間が時々あったんですが
これは私だけなのだろうか……。