新しい神話の断片- 久保寛子[鉄骨のゴッデス](-6/9)
某日、銀座。
銀座一丁目。ポーラミュージアムアネックス。
作家のステートメントから。
青い尖底土器 シリーズ
自然光が射し込む空間。工事中のようにグリーンの網が張られ、入り込む光は柔らかだ。
「土器」が並ぶ。素材は工事現場などで見るブルーシートと糸。
土器は、土器であるがゆえに、(また、長い年月を経たり、出土したときに欠損することで)その形そのものの美しさを見ていなかったと思う。こうして違った素材で形だけが再現されることで、「用の美」であった土器の、シンプルな形の美しさに気が付いた。
ストリートアミュレット シリーズ
アミュレット(魔除け)。
あたかもどこかから出土した、歳月を経たもののように見せながら、素材はセメントと真鍮。そして素材とは関係なしに、作品たちは、魔除けとしての雰囲気をを纏っている。
私たち
素材は木粉粘土、鉄、そしてプラスチックネット。
母子像 & 土のう土器 シリーズ
母子像はセメント製、土のう土器は素焼きだ。
ヘッドライト シリーズ
何かの準備中といった「現場」感。しかしライトに浮かび上がる動物たちの頭部のシルエットが、不思議な、そして不穏な空気を醸し出している。
近寄ってみれば、素材は鉄、プラスチックネット、投光器など。動物たちの頭部のオブジェは、切り取った頭部のようにも、被り物や面のようにも見える。やはり呪術的ななにかが感じられる。
ホモエレクトス
軍手を糸で縫い合わせている。素材を判りつつも、頭蓋として表現されていると触れてはいけない何かのような佇まいが漂う。
Blue Lips
ブルーシートの端切れは、これほど美しくセクシーに。
container
そして、作品番号のさいご。
シート越しに、そのシルエットが見える。
鉄骨のゴッデス
鉄のワイヤーを骨に、プラスチックネットを皮膚として纏った、現代の女神が出現する。
観ているわたし自身の感想を差し挟む余地もなく、ただ感じる、そんな作品たちだった。
畏怖や信仰を表現したいと熱望し、手近な材料を入手しようとするならば、かつては土や石や木材、そして現在は工事ネットやシート、ワイヤーになるのは自然なことだ。
作家のステートメントの最後の部分を。
「 神話や民藝を失いつつある現代。効率化された工業製品の中に、ゴッデス(女神)を見出すことは可能でしょうか。 私は身の回りにある素材から道具や偶像を生み出してきた古人に倣い、いま身近にあるもの、例えばブルーシートや軍手やワイヤーメッシュを使って作品を作ります。それらが新しい神話の断片となり、女神像の身体となることを信じて。」