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静謐な画面のなかで起きる大きな変化 -ジョニー・アブラハムズ[24 Colors for Junichi]

 某日、天王洲アイル。



観る者を惑わせる「素朴さ」

 ジョニー・アブラハムズ「24 Colors for Junichi」(-10/12)

 作品は、遠目に見ると、色彩のコンポジションのようだ。しかし近寄ってみれば、それらは粗いキャンバスの上に塗られ、木の枠がはめられている。

 そこには、自然素材ならではの、きっちりとはいかない振幅が、はっきりと残っている。その「素朴さ」は、もちろん「敢えて」なのだろう。そこがとても気になった。

MAKI Galleryは、ロンドンを拠点に活動するアーティスト、ジョニー・アブラハムズの日本初の個展「24 Colors for Junichi」を天王洲ギャラリースペースにて開催いたします。

アブラハムズによる抽象画は、形と色彩による構図の追求のようでありながら、目の前で作品に対峙すると素材の質感が感じられ、本来触れることでしか感じられない感覚を呼び起こす深みを持ちます。

加工の施されていない麻布を使ったキャンバス、層を成す絵の具のテクスチャ、パレットナイフの動きが示す微妙な変化が、わずかながら確かな揺らぎを生み出し、彼の絵画に命を吹き込みます。アブラハムズが絵画において目指すのは完璧さの追求ではなく、作家の意図に偶然性が掛け合わされることで思いがけず生じる予測不能な事態を引き出すことにあります。

その過程で作家は自身の行動や感情の痕跡を残し、描かれた幾何学的な形をより身近で、関わり合うことのできる存在へと変化させることに成功しています。

同上


最後のところを偶然に委ねる

 解説を読んで明らかになるのは、やはり作家は、規律性のある色彩の構成、を表現しながら、素材選びや筆致において、偶然の要素をふんだんにとりいれていたということだ。

 それは相反するものであるため、観る者はその矛盾に気づき、「あれ?」となって戸惑う。わたしたちはアートを鑑賞しながら、過去の鑑賞履歴と照らし合わせて無意識のうちに分類を行っているわけだが、記憶のなかのどのジャンルに分類すべきか、迷いが生じる。

アブラハムズの活動は、科学、特に元素の創造過程に対する深い関心に根ざしています。物質の起源、物質世界の構成や認識についての探求が彼の作品に大きな影響を与えています。

物質が誕生する際に光が生まれる事実に触れ、作家は「物質の創造がその物質を知覚するための光を生み出すという現象は、私にとって非常に詩的で大きなインスピレーションを与えてくれるものです。私は常に自分が描く形同士の関係を、物質創造の瞬間のメタファーとして捉えてきました。」と述べています。

同上


ほかの事象にも転用可能な比喩として

 クールに分断された画面、色の対比。その一方で、当の色彩たちは粗いキャンバスの上で揺らぎ、どこか温かみさえ醸し出す。ニュアンスのある秋色で描かれていることもあり、白壁のギャラリーには、ほっと和むような雰囲気さえ漂う。

 観る者を戸惑わせるその相反する二面性については、解説にあった、「描かれた幾何学的な形をより身近で、関わり合うことのできる存在へと変化させる」という一文が収拾を付けてくれる。静かな画面の内で行われているのは、大きな変化なのだ。

 言葉の世界であるなら、難しいことを語らずにそれを行うのは難しそうだが、それを軽々超えてしまうのがアートの力だ。そしてそれは、ほかの事象にも転用可能なひとつの比喩として、鑑賞している自分のなかに伝わってもくるのだ。



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