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境界を越え,調和する -グループ展[Connect #3]@MAKI Gallery

 某日、表参道。

美術史や建築、SFなど幅広いジャンルから際限なく引用しつつ、従来の長方形キャンバスの制約を超えた構図を追求し続けるジャスティーン・ヒル。人工物と有機物、東洋と西洋を巧みに融合させることで、自然の儚さや相互性を多種多様に表現するミヤ・アンドウ。幼少期のアルバムや自身で撮影した写真をもとに、断片的で曖昧ながらも自己形成にかかせない‘記憶’のノイズを描く塔尾栞莉。色鮮やかでファンタジー溢れると同時に、矛盾する感情や物語が無数に潜む不思議な世界を創り出す山本亜由夢。サーモグラフィーや刺繍などを取り入れたマルチメディアな作品を通して、人々の身体的なふれあいから生じるエネルギーの相互作用を掘り下げるソフィア・イェガーネ。異なるテーマや技法を扱う5名ですが、現代を生きるアーティストとしてそれぞれ追求してきたものには、思いもよらない共通点が見つかる可能性を秘めています。是非、会場にて作品と繋がって(connect)いただき、その共通点を見出してみてください。

同上

 5人展。まずはそれぞれの作家の作品から。



ジャスティーン・ヒル

1985年ニューヨーク州タリータウン生まれ。マサチューセッツ州ホーリー・クロス大学を卒業後、ペンシルベニア大学にて美術学修士号を取得し、現在はブルックリンを拠点に活動しています。ヒルは色や明度、透明度によって異なる原始的なマークや形を重ねた抽象絵画を制作することで知られています。2015年以降、自身で‘Cutouts’と名付ける不定形なキャンバスの組み合わせを用いて、従来の長方形キャンバスの制約を超えて発展する構図を追求してきました。納得する形に辿り着くまで何度もスケッチを重ね、アクリル絵具や色鉛筆、パステル、オイルスティック、手刷り、コラージュなど、さまざまな画材や技法を取り入れながら、表現のバリエーションを膨らませ続けています。また、ヒルの独創性に富んだ作品は、建築やデザインから古代神話、SFまでにわたる、幅広いジャンルから際限なく引用することによって成り立っています。

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ミヤ・アンドウ

アンドウは鉄、木材、ガラス、アルミ、紙などさまざまな素材を使い、絵画やドローイング、彫刻、インスタレーションなどを制作しています。伝統と現代、人工物と有機物、東洋と西洋を巧みに融合させ、繊細な感性で自然の儚さを作品に映し出します。

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塔尾栞莉

尾道市立大学大学院美術研究科美術専攻油画コースを修了し、現在は大分を拠点に活動しています。塔尾は幼少期のアルバムや自身で撮影した写真をモチーフに引用し、ふとした時に思い出される純粋な記憶の大切さと儚さを表現します。日々脳内に積み重なる情報に、過去の思い出たちは押し潰され、時に抽象的かつ断片的なイメージだけが残されていきます。誰しもが持ちあわせる体験に向き合った塔尾は、記憶の曖昧さをデジタル画像の劣化を示すノイズで表し、デバイスの画面を模した画布上に巧みに描出します。モチーフである写真が撮られた年代は様々で、記憶の輪郭が不明瞭であるほど作品へかかる歪みは増大し、より本来の姿を見出すことが難しくなります。しかし、大部分が忘れ去られている思い出の中からも、塔尾は自身の脳内に残る断片部分を拾い上げ、3 x 3 cmのグリッドひとつひとつへ丁寧に当時の思い出に命を吹き込みます。マスキングテープで1列おきにマス目を作り、油絵具を端から淡々と置いていく作業は、現在の塔尾自身を構成しているものたちの存在を確認しキャンバス上へ記録する行為なのです。

同上


山本亜由夢

2018年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業後、2020年に同大学大学院にて油絵を研究し、美術学修士を取得しました。現在も東京を拠点に活動しています。山本の色鮮やかな作品は、人間と動植物をモチーフに、ファンタジー溢れる作風の裏に住まう‘リアルな世界’を表現しています。豊かな自然に囲まれた恋人同士など、至福の一時を描いているように見える彼女の華やかな作品には、矛盾する様々な感情や物語が無数に潜み、どこか不穏な空気を醸し出しています。親密と不和、光と影、整然と雑然など、相反する要素がひとつの画面に共存することで多面的な現実世界を示しています。油絵具が野放図に塗布された作品はどれも具象と抽象の間を行き来し存在感あふれ、観る者を山本の世界観へと引き込みます。

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ソフィア・イェガーネ

1996 年ロンドン生まれのイラン系イギリス人アーティスト。2020 年にパーソンズ美術大学 にて美術学士を取得し、現在もロンドンを拠点に活動しています。イェガーネは刺繍やコラージュ、ペインティングを 用いながら、アイデンティティ、人間の本性と身体、そして自然にまつわる私的なテーマを扱い、表現力豊かで直観的 な作品を制作します。彼女の作品には有機的な造形がしばしば登場し、特に現代の社会や文化において理想的に描写さ れる傾向がある ‘女性の身体’ を主題によく取り上げています。イェガーネは対照的な技法を駆使することによって作 品に深みを与え、独特な雰囲気を醸し出します。最新シリーズである「Interaction」は、様々な技法を通して身体の動 きを捉えようとする試行錯誤から生まれており、光と影、静と動の鮮明なコントラストを描くことで知覚の限界に挑み、 身体から発せられる ‘目に見えないもの’ を表現しようと試みます。また、本シリーズにサーモグラフィーを取り入れる ことにより、人々のふれあいから生じる感情やエネルギーの相互作用をより深く掘り下げます。

同上

「作品とのconnect」

 はじめに、あえて作家別に紹介をしたのには理由がある。5人展ということを忘れてしまいそうになるくらい、展示空間は調和していた。

 それぞれの作家の作風は大きく異なるのだけど、展示の流れがあまりにも自然で、作家同士の作品の境界線がなくなっているかのようだ。

 だから途中で、入口に設置されていた作家たちのプロフィールやポートフォリオを観て作風を確認し、また鑑賞に戻った。

 さきほどの引用に戻る。

異なるテーマや技法を扱う5名ですが、現代を生きるアーティストとしてそれぞれ追求してきたものには、思いもよらない共通点が見つかる可能性を秘めています。是非、会場にて作品と繋がって(connect)いただき、その共通点を見出してみてください。

 たしかに。「思いもよらない共通点」とは、作風とか色使いという、目に見えるものを含みながらも超越した、抽象的ななにかかもしれない。

 これがキュレーションの力、なのだろうか。



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