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蘇る,熟れた果実の匂いと生き物の気配- 木村充伯[匂い]

 8月某日、六本木。

 木村充伯 - 匂い@ケンジタキギャラリー 六本木(※8/7までという案内だったが、8/24現在では、まだ開催されていた)


匂いの記憶、存在の気配

 入口を向いて立つ、ふしぎな雰囲気の木彫りの人形に興味を惹かれて中をのぞいてみれば、

 その白い空間の壁一面に、フルーツのオブジェが展示されていた。

 それぞれの果実の中には、人?が生息しているようだ。

人と動物の関係をテーマに「生死をつなぐもの」を探求してきた木村充伯。近年は、呼吸、匂い、音など、目に見えない微粒子や空気の振動に関心を寄せています。

新作は、臭覚からアプローチした作品群。果物と人の形態の中に日常の体験と大きな自然界の循環とを重ね、「匂いの記憶」や存在の気配を表現します。

2022年、人が段々とマスクを外し始めた頃、匂いが気になり出したという。スーパーを歩いている時に感じた、後ろの人の口からのコーヒーの匂い、散歩している時に感じたいちじくの匂い。

今展では、「果物が動物に種子を運ばせるように、匂いも動物に運ばせるような展示」を試みる。

「見た目が果物の作品は、果物の中に人のような果実が呼吸して匂いを口から出しています。見た目が人間の作品は、コーヒーの匂いから人間の気配を、他の動物の作品も、ユーカリからコアラの気配を、バナナからコウモリの気配を感じさせたいと思っています。その場で食べている匂いではなく、どこかで食べたものの匂いを。」

同上


記憶の中から、匂いが呼び出される

 会場には、リアルではないのに妙に存在感のあるコウモリや、

 木彫りとわかるのに、感触はフカフカなのではないかと思わせるような生き物たちが、適度な距離を保って展示されてもいる。

 フルーツの果肉を纏った人の像とあわせて見れば、記憶のなかにストックされたそれぞれの果実の香りと、生き物たちの気配が呼び起されてくる。

 一見コンパクトなこの展示空間の、空間全体が「生」の気配に満ちあふれてくる。そしてそこでは、さまざまな果実たちが熟れて匂いを放つ。

 脳から呼び出された香りの記憶が、鼻の奥にリアルに蘇ってくる。



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