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[現代のダヴィンチ]の創造物 -テオ・ヤンセン展(大阪南港ATC Gallery)

 鑑賞したいと思いつつ、ここ数年ニアミスを繰り返していたテオ・ヤンセンの展覧会。大阪展(9月25日まで)にようやく足を運ぶことができた。

■風で自立疾走する"ビースト(生命体)"

風を動力源としてオランダの砂浜を疾駆する「ストランド(砂浜)ビースト(生命体)」。ボディ全体は黄色いプラスチックチューブで造形され、物理工学を基盤としたその動きは生き物を思わせるほどに滑らかで有機的です。それらはオランダのアーティスト、テオ・ヤンセン(1948~)によって故国の海面上昇問題を解決するために生み出されました。作者亡き後も自立して砂浜で生き延びることを目指し、ストランドビーストは歩行、方向転換、危険察知などの機能を備え、さまざまな環境に適応していくためのシステムを獲得していきます。生と死を繰り返し、遺伝子と遺伝情報を受け継ぎながら進化し続けてきた生命体は、芸術と科学という既存のカテゴリーを横断し、新たな可能性を私たちに提示しています。

開催概要より抜粋

 会場は大阪南港ATC Gallery (ITM棟2F)。

会場前のようす

 大阪駅(梅田)方面から地下鉄で移動してくる場合、ニュートラムという、ちょっとレトロな「ゆりかもめ」といった感じのトラムの「トレードセンター前」駅が最寄り駅だ。

車両もレトロで絵になる
たまたま人もまばらで、最前列で景観を楽しんだ(帰りは帰宅時の混雑を体験した)

■法則性のある命名と進化系統樹

 ヤンセンは物理学者であり、その後アーティストに転向している。ビーストたちへの命名への法則性や、進化系統樹まで作ってしまうところはとても学者っぽいし、自身が想像した生命体へのリスペクトも感じさせる。

 さらにそうした細部のリアリティは、観る者を無理なく、架空の創造物の世界に連れて行ってくれる。

 それぞれのストランドビーストには「アニマリス」(英語で動物を意味するanimalとラテン語で海を意味するmareの組み合わせ)というテオ・ヤンセンの造語から名前がついています。また、進化するビーストはその構造や機能によって分類され、それをもとに時代名がつけられています。

みどころ より抜粋
「アニマリス・リジデ・プロペランス」 1995  タピディーム期 (1994-1997) 1.7×2.5×1.7
アニマリス・ペルシピエーレ・プリムス 2006 セレブラム期 (2006-2008) 3.0×7.5×2.5
[アニマリス・ウミナミ ]2017 ブルハム期 (2016-) 3.0×5.0×4.5
「 アニマリス・ミミクラエ 」2019 ブルハム期 (2016-) 2.8 x 4.5 x 2.0 動画では本当に生き物のような動きを見せる。

 進化系統樹も、あまりに詳しく整然としている。ヤンセンにとって、ビーストたちは本当に生命体なのだと納得してしまう。

ビーストたちの進化系統樹

■会場での「リ・アニメーション」


 ヤンセンはビーストたちを創造し、オランダの浜辺で走行実験を行っては研究室に持ち帰って改良を重ねる。役目を終えたビーストたちは、アート作品として今回のように世界を巡回する。

 展示されているビーストを会場で動かすことを「リ・アニメーション」といい、その日の最後の回を見学できた。

「アニマリス・ペルシピエーレ・プリムス」 2006 セレブラム期 (2006-2008) 3.0×7.5×2.5
かなりの速度で前進してきた

 足を交互に出しながら、動物が走るように前進する。幅7.5mの「生命体」が、強風の海辺で走る姿は圧巻だろう。

■手で動かしてみると

 会場ではまた、小型のビーストを手で動かせるコーナーもあった。ビーストは前にしか動けないので、進み切ったあとは、引っ張るか、逆向きから押す形で定位置に戻す。

写真中央、ビースト本体の赤テープの箇所に手を添えて押す。赤テープで示した枠内を往復

 感触は「道具を動かしている」感じ。重くはない。手で押している限り、「生命体な感じ」はなかったので、やはり「風を食べて動く」ところがポイントなのだろう。

■現代のダヴィンチの仕事を間近で

 ストランドビーストたちは「浜辺で走っている姿」が胆なので、やはり生きているビーストが「百聞は一見に如かず」なのだと思う。会場で上映されている動画を見ると、浜辺での実演が観たいと思ってしまう。

  ただ、展覧会では、「現代のダヴィンチ」とも呼ばれているヤンセンのクリエイティビティを詳しく知り、ビーストが本当に「どこにでもあるもの」で創造されていることを目の当たりにできる。

プラスチックチューブを結束バンドで固定して創造される

 学生らしき若者たちが「すごい」と連発しながら細部の写真を撮っている姿も印象的だった。夏休み中ということもあってか、家族連れも目立った。

 ビジネスのみならず、ほかのことに対してまでも、「すぐに役立つか」とか、「費用対効果」で判断する価値観になりがちな昨今、人生をささげてこのような創造物を産み出している天才がいる、ということを知るだけでも、子どものみならず、大人のわたしたちも、どこか安心する。

 そしてわたしも、ビーストたちに「すごい、すごい」と連発したくなる。

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