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静かな生の息吹 -塩田千春「つながる私(アイ)」(-12/1)

  塩田千春「つながる私(アイ)」(-12/1)を鑑賞しに、大阪中之島美術館(大阪市北区)まで、。

 大阪中之島美術館へは、約2カ月ぶり。

 塩田千春作品は、約10カ月ぶり。



最寄り駅から美術館への道

 美術館までの堂島川沿いの道がとても好きなので、最寄りのJR新福島駅から歩く(帰りは、観光がてら、のんびり大阪駅まで歩いた。意外に近くて、楽しい道だった)。

 川沿いを進むと、

 高層ビルたちに挟まれた黒い特徴的な建物と、ヤノベケンジ氏のオレンジ色を纏った猫の姿が見える。

 コインロッカー(リターン式)の数も多く、旅行者にはとても助かる。

 展示室は5階。

 前回の、木下佳通代展と同じ会場なのだけど、

 様子が全く違っていた。

展示室外の大インスタレーション

 出迎えてくれたのは、赤いドレスのインスタレーション。

 中をくぐらないと、会場に入れない。視界が赤くなり、ハレーションを起こして足元がふらふらする気さえする。

 一瞬で、塩田ワールドに持って行かれてしまった。

 インスタレーションが特徴的な作家なので、展示も「あの会場なら、だいたい、あんな感じ」というイメージがあった。それを見事に覆された。


赤から一転、白の世界へ

 赤い世界から会場に入れば、そこは一転して白の世界。

 ドーム状の、繭のようなその世界は、1本ずつの糸で紡がれている。

 水滴は、ここから水面へと落下していく。

 水滴によって世界に動きが生じ、水面がゆらめく。


インタビュー映像と絵画

 次の展示室は、大画面で鑑賞する、作家へのインタビュー映像。内容は幼少期の話にはじまり、アーティストとしてのキャリアを辿り、時代ごとの作品の詳細も紹介されていて、塩田千春という作家を深く知ることができる。

 バスルームのバスタブのなかでひたすら泥水を被る作品、チューブのなかに血液に見立てた赤い液体を入れ、それを全裸の身体の外に巡らせて死体のように横たわる作品など……。

 作家の身体との向き合い方、そして病を得て、どんなふうに作品が変化を遂げたのかを辿ることができる。

 絵画も展示されている。

 インスタレーションを二次元に落とし込んだような、糸をキャンバス上に巡らせた作品もあった。


回転するウェディングドレス

 後半も、同じく広い会場を活かした展示が続いている。

 天井から吊るされて高速で回転する、裾がとてもとても長いウェディングドレス。

 ドレスの裾がふわっと広がり、ダンスを観ているかのようだ。


「全てが私で、頼りなく私でないような」

 身体性というテーマが、ビジュアル的に示されている作品。

 箱どうしは、赤い糸で細くつながっている。


「The Eye of the Storm」

 最後のインスタレーション。

 昨年末に京都精華大学で鑑賞した同じ作品とは、テーマは同じながら、少し異なる印象を受けた。

 そのときは、作品のなかに通路が設けられ、鑑賞者はその小路を進んで作品のなかに入り込んだ。天井の高さ、鑑賞者の動線など、会場の特性にあわせて変化する作品なのだろう。

 今回は外から、無数の手紙の乱舞を鑑賞する。

 天井までの高さを活かした、ダイナミックな展示だ。


「生きる」を思う

 書いた人の手を離れた手紙、纏う人が不在のドレス。そして張り巡らされた糸。そのどれも、人のぬくもりからは離れた存在なのだけど、その気配があるからだろうか、わたしは今回の展覧会から「生きる」を受け取った。

 2019年、森美術館で開催された「魂がふるえる」。写真を撮り始めるだいぶ前で、記録は残っていないのだけど、その展示に非常に感銘を受けて、何度も足を運んだ。そのときの塩田氏は病を患い、死と生、のメッセージがもっと明確であるように感じられた。

 それから5年を経て、作品たちからは、静かな静の芽吹きのようなものをわたしは感じた。それはわたしが、作家と同じように病を得て、そして今、自分自身の生を愉しんでいるから、かもしれないけれど。

 訪ねて、よかった。



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