短歌作品 戻れない旅(10首)
戻れない旅 生田亜々子
わからないことがあふれる日々にいて真夏日という言葉明るし
毎日が戻れない旅 別々のホームから手を振り合って乗る
思い出すたびに痛んでもう会えない人はなおさら純化してゆく
悲しみは際限もない下がりつつ暗い廊下を淡々と拭く
霾(よな)のような後悔はあり手のひらでこすれば消えぬ傷が残って
捨てられぬ記憶を持ったわたくしのなにかが夜の底まで沈む
飲み込んだ言葉はどこへ秋雨に濡れた新聞紙のもろいこと
残照はなおも眩しい傷つけたこともあったのかもしれなくて
思慕というほどではなくて遠くから眺めるだけのひるがおの花
この先も旅は続いて オリーブの小さな鉢を窓際に置く
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初出:第37回熊本県民文芸賞作品集(短歌部門2席)2016年
※生田亜々子第一歌集『戻れない旅』(現代短歌社 2018年)のベースとなった連作です。
歌集はこちらで入手可。この連作も含まれています。