短歌(長歌)作品 揺
揺 生田亜々子
艶やかな 四月の夜が 二度までも 強く揺られて その揺れを 例えて言えば 箱庭を 抱えて強く 揺さぶったような衝撃 身動きも 出来ずに揺られ 真夜中の 足の踏み場もない部屋で てんでに響く アラームは 地震速報 揺れの後 遅れて届く 震源は 熊本地方 益城町 震度7にて 闇に震える
気がつけば ぼたん桜も 散り終えて 春の終わりの 一節を 余震や水や 食べ物や 病気や怪我や 寝る場所の 心配事で 失えど 潰えた家の 傍らに 地震災害ごみの積む 集積場の 傍らに 地割れの畑の あぜ道に 花は開いて 芽や若葉 色濃くなって 変らない 姿で揺れて 夏へと向かう
明暮も 天気も全て ショーとなり 悲しみとして はめられて 被災地という 呼び方で 今日は呼ばれて 絆とか 寄り添うだとか 誰がための 言葉だろうか 遠くから 聞こえる声は かそけくて 幻聴のよう 遠くから がんばれなんて 言われても 遠くから 眺めた詩など 読まれても 何と返して いいものなのか
反歌
曖昧な笑顔で返すがんばるといえばOK 初夏の風
新しい等間隔の植栽の遠くに見える壊れたお城
検索の履歴を消して その時の潰えたままの姿の家並み
今が今 ここがわたしの現在地 どんな日だってなにか食べなきゃ
初出:短歌誌『虹』20号
生田亜々子著『地震と歌と生活と』(2020年)収録
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※長歌とは
和歌の歌体の一つ。五・七の二句を三度以上繰り返して最後に七の句を添え、合計七句以上から成る長い歌。普通、「反歌」と呼ばれる短歌を数首添える。
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2016年5月に、平成28年熊本地震の折を詠んだ作品です。今日で丸6年が過ぎました。
地震の折のことは、この長歌とともに短歌作品・ルポルタージュ・日記などを集めてこの本にまとめています。
僅かですが残部があります。入り用の際はご連絡ください。
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