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BAR HOPE

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小さなBARに訪れる風変わりな客達の、お酒にまつわるショートストーリーを書いていきます。
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#短編小説

「BAR HOPE」

「BAR HOPE」

 ④コスモポリタン〜

 ゆっくりと半分ほど開いたドアの隙間から、ユキさんがいつもの完璧な笑顔を見せる。ユキさんに微笑みかけられると、僕だって上手に笑い返せている気がして得意な気持ちになる。空いていれば必ずカウンターの真ん中に座り、おしぼりを渡すとやっぱりユキさんは完璧な笑顔でそれを受け取る。
 僕はあまり興味が無いので知らなかったが、ユキさんは有名なファッション雑誌で表紙を飾るほどの人気モデルで

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「BAR HOPE」

「BAR HOPE」

②ジャックダニエル〜

 カウンターの中に置いた木製のスツールに腰掛けて夜空を眺めていると、店の古い電話が鳴った。僕は慌てずに、約束の5コール目までたっぷりと待ってから受話器を取る。

「今日は席空いてるかい?」

 受話器からはいつも通り本間さんの声がして、空いてますよと僕が返事をしたら、今から二人で向かうとだけ言って、本間さんはさっさと電話を切ってしまう。この店の電話は本間さんの為にあるような

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「BAR HOPE」

「BAR HOPE」

①ブラッディーサム〜

 この店にはあまり客が来ない。マダムが騒がしいのはごめんだと言って、駅から三十分も離れた雑居ビルの三階に店を構えているせいだ。
 古びた雑居ビルの、錆びくさい螺旋階段を登った先にこの「HOPE」という名のBARはある。地獄の門みたいに重く大きな扉を開けると、店内には豪奢な一枚板のカウンターと、ゆったりとした椅子が五脚だけ並べられている。
 三段に配列されたバックバーには、ウ

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