暗闇に耐える
2023/08/20の日記
夏季休暇に入り昼夜逆転している。
夜間はひたすらスマホをいじり、日が上るとやっと眠気に襲われ、昼過ぎまで爆睡している。
こんな人間が夜行バスに乗るとどうなるか。
夜間に走るバスなので、当然、全く眠れない。
帰省のため高速バスに乗った。
消灯時間を過ぎ、バスの中は暗闇に包まれる。
貧乏な人間をできるだけ多く運搬することに特化したその乗り物は、1人辺りに与えられるスペースが限りなく狭い。
ぴくりとも動けない私。
視界は、時折カーテンの隙間から漏れる街頭の明かりが移動するのを除きほぼ真っ暗である。
スマホでもいじろうものなら、途端にスマホの光が闇を切り裂き、近くの座席で眠る乗客を襲い、はっきり苦情を言われないまでも「マジあいつクソだな」と心の中で舌打ちされるだろう。
こんな話を思い出した。
人間は視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚を遮断されると、ほんの数十分で気が狂うらしい。
人間を縛り付けて、アイマスク等で五感を奪う実験があったらしい。よく覚えてないけど。
サービスエリアに到着し、やっと四肢と五感の自由を得る。
スマホにイヤフォンを指すことで、真っ暗な車内で聴覚だけは奪取することに成功した。
音のありがたみをこんなに感じたことはない。
私はYouTubeで、町山智浩さんによる、アンジェイ・ワイダ監督の映画『灰とダイヤモンド』の解説を聞いていた。
その中で、一つ前に作られた映画『地下水道』についての言及があった。
第二次世界大戦末期、ポーランドの兵士は、ソ連から見捨てられ、ナチスの侵略に遭い、逃げ場がなくなり地下水道に逃げ込む。
しかしほぼ全滅に近い形に追い込まれる。
迫り来るナチスから逃げるため、悪臭漂う暗闇の中を彷徨い、気が狂っていく人々の映像を思い出す。
『灰とダイヤモンド』は、地下水道にいた兵士の生き残りが主人公であり、
長く暗い地下水道にいたために目が弱く、常にサングラスをかけている。
そしてそのサングラスがマトリックス等多くの映画に影響を与え、抵抗する若者の世界的なシンボルになったらしい。
その話を聞いて、暗闇の中で亡くなっていった人々を考えた。
目を閉じ、しばらくすると、朝の光が私の瞼を照らした。