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長い旅の終わり

常に安定した水の中で
悲しさも寂しさも感じず
時折目を開けて
ぷかぷか浮かぶ
自分の吐き出した泡を眺めてた

時折
くぐもった声が
歌いかけてきた

あぁ、あれが子守唄なんだ

僕の体はどんどんと
大きくなり
ここから出る日が近づいた

明かりが見えてきた

もうすぐです!頑張って!

誰かの声が聞こえてきた

凄い力に押されて
僕は外に出た

眩しい光の先に見えたのは
たくさんの見た事のない世界

僕は目を開けて
周りを見回した

僕この世界に
生まれてきた

息ができないよ
苦しくなって
泣いた

急に呼吸ができた

僕はもう
あの部屋には戻れない

なんだか
不思議な感覚になって
気がついたら叫んでいた
なんだか
冷たい水が流れてきた

あぁ、これが泣くというなんだ

泣く事で
僕の周りが
緩やかに動きだした

僕を覗きこんだ
大きな何かが
「生まれてきてくれてありがと」
「私がママよ」
と言った

あの部屋から出ること
それは
「生まれる」という事らしい

ママという物体は
僕を撫でた
気持ちよくて
目を瞑った

そうか!
僕は「生まれてきたんだ」

ぐっと握りしめた手を開いた

手の中からいろんなものが
空中へと散らばった

「今、散らばったものを探すのが
生きることだから、それを見つけるまでは
ここに戻ってはいけない」

うっすら目を開けた

光が差した先からぼんやりと
声が聞こえたけれど
空中に散らばった物がなんなのか…

そんな事より
長旅で僕は疲れたんだ
なんだか
体の中心が寂しくないてるよ

僕を満たしてくれないかい
お願い

僕はもう一度
大きな声で泣いた

よしよしと
体が揺れて
口の中に暖かい液体が入ってきた

満たされた僕は
目を瞑って眠った

僕は長い長い旅をしたんだよ
いつか、聞いてくれる?
僕が『言葉』を覚えたら
ねぇねぇ
絶対聞いてよね?

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