夕暮れ映画館 2
第二章 出会い
なんとか、こぎつけた週末
終わったー。
昨日の夜は、食事も取らず、シャワーも浴びずにそのまま、布団にダイビングして
眠ってしまった。
厚いカーテンの隙間から
朝の光が差し込んで私の顔を照らす
ま、眩しい!
目を擦りながら、チラッと時計を見た。
8時半…
や、やばい!
私は飛び起きてシャワーを浴びるために
浴室へと向かった。
約束の時間は12時
あの映画館までは…と逆算しながら
準備をする。
“40秒で支度しな!”
どっかで聞いたセリフが頭の中で響く。
あれ?40秒だったっけ?
40秒じゃ、化粧できないじゃん
まあ、かすみとならいらないか…
などと考えながら支度を終えて、
家を出たのは9時。
早足で駅まで向かう
-2-
夕暮れ映画館は、隣町の鄙びたアーケード街の中に立つ古い映画館だ。
昔はここも栄えていて、映画館ももっとあったらしい。
流行りの映画はもっと、遠い街に行かないと見れないが、今は、ネットで見れるから、映画館なんて、久しぶりだ。
11時30分。
良かったー、間に合った
私はホッと息を吐き、近くの自販機で
缶コーヒーを買った。
缶コーヒーを飲みながら、何の気無しに、
チケットを見た
な、なにーー!
叫びそうになるのを必死に抑えながら
チケットを凝視した
映画の題名…
こ、これって、恋愛物語じゃん!
い、いや、ラブストーリーか…
まぁ、どっちでもいい!
30前のいけてない女子二人で
ラブストーリーみるの?
は、恥ずかしすぎるだろうが!
ラブストーリーはさ、
恋人同士がさ、ポップコーンとか食べながら
手を握り合って…
えーい!妄想やめ!
はぁはぁ…
何故か一人ツッコミしながら、
謎の汗を袖口で吹いた
まぁまぁ、落ち着け。
女二人で見ても楽しいはずだ
…
…
…
多分…
ため息のような息を吐いて
チケットをリュックにしまい
缶コーヒーを飲んだ
🎶
スマホのLINEの通知音がした
LINEを開いた
ちょっと、まったぁ!
思わず叫んだ
通りすがりのおばあちゃんが
不思議そうにこちらを見た。
あははは…と笑うと
にっこり笑って、押ぐるまを押して行ってしまった。
嫌な汗が溢れてきた
ど、どうすんのよ!
私はLINEの画面を見て固まった
“ごめーーん!急用ができていけなくなった”
そこには、かすみからのドタキャンメッセージがあった。
『待ってよ!困るよ〜』
すぐにLINEを返したが、既読がつかない。
待ってよ、私だけでラブストーリーを見ろと?一人で?
私はラブストーリー苦手なのに
顔中に🥺マークをつけて
映画館の前で立ち尽くす。
太陽がまぶしいぜ
ふふふ…
強がってみたが、気分は晴れなかった。
帰るか…
残っていた缶コーヒーを飲み干して、
リュックを、背負い直して歩き出そうとした時
「あ、あの、さくらさんですよね…」
声のする方を振り返ると
そこにいたのは、営業2課の柏木さんだった
「えーっと…」
わかってる、この人が誰なのか
わかってるんだけど…
休日に同じ会社の人に会ってしまったから
どう接したらいいのか、わからない。
まして、男性社員
叫ばなかっただけ、褒めてほしい
「あのー」
柏木さんが不思議そうに首を傾ける
「は、はい!さくらでぇーす」
(あぁ、語尾が…涙)
動揺する私を気にも止めず、柏木さんは
「さくらさんも映画見に来られたんですか?」
と悔しいくらいの笑顔で言った。
「そ、そのつもりだったんですが、かすみがドタキャンしたので、帰ろうかな、と」
何故かめちゃくちゃ上ずる声。
まさか、ラブストーリーを一人でみるのが恥ずかしいから、なんて言えない。
「実は僕もなんですよ。ラブストーリーなんて、一人で見るの、はずしくて帰ろうとしたらさくらさんがいたので声かけちゃいました」
にっこり笑う笑顔が、ま、眩しい…
「あの、良かったら、一緒に観ませんか?」
柏木さんが、恐る恐る聞いてきた
「えっ?私でよければ」
(おい!何言ってるのよ、さくら)
自分で自分にツッコミ入れる
「よかった。じゃあ、行きましょう!
もう始まってしまいますから」
柏木さんが私の手を優しく掴んだ。
頬が赤くなるのを感じながら
下を向き、柏木さんと映画館に入った。
ーーーーーーー
電柱の影から、ひょっこり現れた影。
「危ない、危ない、失敗するとこだったわ。全く!世話が焼けるわね。」
かすみはつぶやき
ニコニコしながら
「さてと、見つからないように
隣町のふじさん、行ってオムライス食べよう!っと」
かすみはワイヤレススピーカーを耳にはめ歩き出した。
-つづく-
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