
どこにでもいるツインレイのふたり
気分が少し落ち込んだ時、ちゃんと眠りたい時、
それから顔を忘れてしまわないようにと、彼の元を訪れる。
漆黒の闇にキラキラの輝く星や、遠くの星雲を見ながら、
「会いたい」と思った一瞬に、彼の宇宙船までひとっ飛びできる。
宇宙船の入り口にはドアが無くて、
いつも両手でつかまって、のぞき込むように息を潜めているのに、
「やあ、来たの?」とすぐに私を見つける。
天井から覗いても、足元から覗いても、
いつもテーブルに本を広げて読んでいるのに、すぐに見つかってしまう。
読んでいる本をパタンと閉じて、
私の腕をひっぱって宇宙船に招き入れてくれる。
彼はいつも白い服を着ている。
「眠りたくなったの?」と問うので、
「ちょっとね」と意味ありげに肩をすくめて見せると、
鼻で笑って、「奥へどうぞ。ごゆっくり」と笑顔を見せる。
肩までの無造作な髪はいつもと変わらない。
細い柱が何本も、パ-テーションのように立っている向こう側に、
群青色のふわふわとした羽布団のベッドがあった。
彼がチラリと顔を見て、
「水色が良かった?」というので、
「うん、デルフィニウムの水色みたいなお布団」と催促する。
お互いの気持ちがいつでも、手に取るように分かるから。
瞬きするだけで、綺麗な水色に変わって、安心して横になる。
柱の隙間から、本を読んでいる彼が見える。
彼の背中側には、座り心地の良さそうな白いソファと、
宇宙船に作り付けの、どこまでも高い本棚がある。
安心して目を閉じると、頭の中に、
彼が朗読してくれる銀河系の、どこかの星の物語が聞こえてきた。
今日はこと座のベガのお話のよう。
響く重低音の、メトロノームのようにリズムが乱れない声。
そっと目を開けると、まだ分厚い本に目を落としていて、
その姿と、子守歌のような彼の声に、安心して眠りに落ちていく。
「よく眠れた?」
髪をぐしゃぐしゃにしたままで、彼の座るソファの隣に腰をおろす。
「髪をといてあげるよ」
本を手放して、もう、銀色のブラシを空間から取り出している。
「こっちへおいで」
抱かれるように座って、彼のとりとめのないお喋りを聞く。
「やっぱり長い髪の方が似合うよ」
「綺麗な色に染めたんだね」
私はまだ眠りの中に片足突っ込んだまま、ただ「うん、うん」とうなずく。
「ねぇ、今、誰か通っていったんじゃない?」
ドアのない入り口は宇宙と繋がっているので、外の様子は丸見えだ。
宇宙船はほんの少しの壁があるだけで、宇宙船というより、
宇宙に浮かぶツリーハウスのようなもの。
宇宙船の床に裸足で乗りこめば、
どんな態勢になっても、宇宙船の付属物として守られている。
「彼らはただこの辺を見回っているだけさ。
なにか変わったことがないか、みんなの安心のために、
ただああやって姿を見せているだけ」
「シャボン玉の泡のような船を持ってるのね。小さくて可愛い」
「今度来た時は、ああいうのに乗って白鳥座のデネブまで行ってみようか」
「あ、行きたい!でも1400光年よね?時計必要?」
「デネブは銀河系にかなりのエネルギー放射してるから、
それを使えるから大丈夫。天の川をゆっくり時間旅行できるよ」
「ふたりで一緒の星にずっと住めたら楽だったのにね」
「大丈夫。君とデート出来るなら、一億年だって待てるさ」
彼はそう言って、私の髪に唇をよせた。
相変わらず私の心と寸分違わず、重なるところは重なって、
100と0のまるで違うところがせつなくなって、瞬間に夢から覚めてしまう。
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