あっけなく別れてしまった
あの日青く青く広がっていた空
(誰も見てはいなかったけれど)
鳥たちが消えてしまった静寂
(あとになって気づいたけれど)
音をたてて崩れていく波の穂が
分厚く容赦なく黒々と落ちていく
(そのように呼吸を奪ってしまった)
水鏡に映る、天国と地獄の境目の大地
絶望で横たわっているというのに
(空からこぼれおちる3月のみぞれ)
目指す中心に無数の手が彷徨う
北から西から南から辿りついたのに
(空からこぼれおちる3月のみぞれ)
お父さんありがとう
お母さんありがとう
お姉さんありがとう
深く心の底から手を合わせて 叫ぶ
もう、誰を呼んでも私に答えてくれない
みんな群青色の海に消えた
見知った顔が新しい毛布を手に走りだす
ため息の人垣を掻き分けて
泥だらけになったお母さんの 胸と足を 別々に抱く
冷たい沢水を柔らかく絞って 丁寧にぬぐい続ける
こびりついた血の塊も 耳や鼻につまった泥も
もうお母さんの一部になってしまった
私を抱いてくれた私のお母さんを 今度は私が初めて抱く
私の明日のために見つかってくれた 私の優しいお母さん
なぜこの季節が選ばれたのだろう
私の希望を吹き消さないようにと
離れた心をまたひとつにつなぐようにと
真っ白な雪がとめどなく しんしんとこぼれ落ちていく
(いつも春を呼ぶ3月のみぞれ)