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イギリスの国王至上法(1534年)を日本語訳する

原文はここからお借りしました↓

⚠️注意⚠️

  • ヘンリー8世の限界クソオタクにしか需要がない内容(とにかく長い)

  • 私は英語ができない(いい加減な日本語訳)

  • 原文でボールド体になっているところは、私が勝手にやりました

  • 単語集は、私が訳していてよく分からなかったやつです(主にPCの英和辞典と英辞郎を参照)


翻訳⑴

原文

Albeit the king's Majesty justly and rightfully is and ought to be the supreme head of the Church of England, and so is recognized by the clergy of this realm in their convocations,

単語集

albeit=〜だけれども Majesty=陛下/至上権、王権、統治権 clergy=聖職者(宗派は問わない?) realm=王国 convocation=(英国国教会の)聖職者会議

訳文①(対応箇所の表記あり)

国王陛下(the king's Majesty)は、当然のことながら正当/合法的(justly and rightfully。訳語にやや迷いあり)に、イギリス国教会(the Church of England)の最高位の首長(the supreme head)であり、また、そうあるべきである(is and ought to be)。

そして、このことは、この王国の聖職者たち(the clergy of this realm。ここで言うtheは「総称」の意か?)が、聖職者会議(their convocations)において公認しているところでもある。

そうではあるけれども(Albeit)……

訳文②(対応箇所の表記なし)

国王陛下は、当然のことながら正当かつ合法的に、イギリス国教会の最高位の首長であり、また、そうあるべきでもある。
そして、このことは、この王国の聖職者たちが、聖職者会議において公認しているところでもある。
そうではあるけれども……

翻訳⑵

原文

yet nevertheless, for corroboration and confirmation thereof, and for increase of virtue in Christ's religion within this realm of England, and to repress and extirpate all errors, heresies, and other enormities and abuses heretofore used in the same,

単語集

corroboration=確認、裏付け、証拠 confirmation=確認、確証 thereof=それの、その repress=抑制する extirpate=根絶する heresy=異端、異端の行動・信仰 enormity=残虐非道な行為 abuse=悪習、腐敗行為 heretofore=今まで、これまで in the same=〜と同等に、〜と同じ次元で

訳文①(対応箇所の表記あり)

しかし、それにもかかわらず(yet nevertheless)、その確認と裏付けのために(for corroboration and confirmation thereof)、また、このイングランド王国(this realm of England)内のキリスト教における美徳の増加のため、更に、今まで行われてきたのと同様な(heretofore used in the same)全ての過ち(errors)、異端(heresies)、そしてその他の残虐非道な行為(enormities)と悪習(abuses)を抑制し、根絶する(repress and extirpate)ため、

訳文②(対応箇所の表記なし)

しかし、それにもかかわらず、その確認と裏付けのために、また、このイングランド王国内のキリスト教における美徳の増加のため、更に、今まで行われてきたのと同様な全ての過ち、異端、そしてその他の残虐非道な行為と悪習を抑制し、根絶するため、

翻訳⑶

原文

be it enacted, by authority of this present Parliament, that the king, our sovereign lord, his heirs and successors, kings of this realm, shall be taken, accepted, and reputed the only supreme head in earth of the Church of England, called Anglicana Ecclesia;

単語集

enact=法律を制定する reputed=〜である/すると評判になる、みなされる Anglicana(ラテン語)=アングリア人、アングリアの、英国教会の、英国教会系の、聖公会の Ecclesia(ラテン語)=教会

heir=誰かの死に際して、王位・称号・財産などを相続する人物
successor=単に誰かに取って代わる人(例:仕事の後任)
参考:https://ja.hinative.com/questions/3918061

訳文①(対応箇所の表記あり)

現在のこの議会(this present Parliament)の権限によって、法制化される(be it enacted)。

国王(the king。ヘンリー8世本人のことだろう)、独立した主権を有する主教(our sovereign lord。この訳で合っているのか?)、彼の相続人(heirs)と後継者(successors)たち、この王国の王たちは、「Anglicana Ecclesia(=アングリア人の教会)」と呼ばれるイングランド国教会の、地上で(in earth)唯一の最高位の首長であると理解され(taken)、公認され(accepted)、広く評価され(reputed)なければならない。

"Parliament"は「議会」の意だが、語源はフランス語の"parler(話す)"にある。

その「パーラメント」の前身は、カロリング朝時代の諸侯会議に由来し、ノルマン・コンクエスト以降イングランドに入ってきた「クリア・レギス(羅:curia regis、英:King's Court)」の大会議らしい。

「クリア・レギス」も「パーラメント」もフランス/フランス語由来であることを思うと、つくづく「イギリスとフランスは関係が深い」と感じる。

参考:安東伸介編『イギリスの生活と文化事典』(研究社出版、1982年)667ページ。
「クリア・レギス」『世界大百科事典』Japan Knowledge Lib

"our sovereign lord"の訳が難しかった。特に"sovereign"の部分。

訳としては少々くどくなるが、この国王至上法(1534年)が、イングランド王国が大陸ヨーロッパの普遍権威(例:ローマ教皇、神聖ローマ皇帝)からの主権確立を目指した第一歩であることを考慮に入れ、「独立した主権を有する」とした。

ちなみに"sovereign"の訳として、他にも「絶対の」などがあるらしいが、「ヘンリー8世は、まだ完全なる絶対君主とまではいえないだろう」ということで除外した。

余談やで♡

訳文②(対応箇所の表記なし)

現在のこの議会の権限によって、法制化される。

国王、独立した主権を有する主教、彼の相続人と後継者たち、この王国の王たちは、「アングリア人の教会」と呼ばれるイングランド国教会の、地上で唯一の最高位の首長であると理解され、公認され、広く評価されなければならない。

翻訳⑷

原文

and shall have and enjoy, annexed and united to the imperial crown of this realm, as well the title and style thereof, as all honors, dignities, preeminences, jurisdictions, privileges, authorities, immunities, profits, and commodities to the said dignity of the supreme head of the same Church belonging and appertaining;

単語集

enjoy=与えられている、持っている、享受する annex=編入する、併合する style=称号 preeminence=卓越、傑出、優位 jurisdiction=司法権、裁判権、支配権 immunity=(義務・税などの)免除/免責 said=前述の appertaining=〜に属する、〜の所有である

訳文①(対応箇所の表記あり)

そして、その聖職就任資格(title。この訳で合っているのか?)と称号(style)同様、この王国(this realm)の荘厳なる王冠(the imperial crown)の元に編入(annexed)し、統合(united)された、前述の同教会の最高首長の地位(the said dignity of the supreme head of the same Church)に帰属し、所有される(belonging and appertaining)全ての栄誉(honors)、尊厳(dignities)、優位性(preeminences)、支配権(jurisdictions)、特権(privileges)、権威(authorities)、免責(immunities)、利益(profits)と財貨(commodities)は、所有(have)され、享受(enjoy)されなければならない(shall)。

全体的に、何処と何処がつながっているのか、分からなさすぎる……これ分かる人いるの??(いる)
この箇所だけ、マジで文章のつながりが意味分からなすぎたから、他の人が訳した国王至上法を参考にしたわい(なんか負けた気がする)。

"the imperial crown"の訳は散々悩みましたが、「この時期のイギリスは、別にイギリス帝国ちゃうやろ」と思い、"imperial"を「荘厳なる」としました。
1534年の国王至上法で問題となるのは、この"imperial"をどう捉えるか、というところなので、訳には気を遣いました!!

てか、全体的に翻訳が「〜し、〜される」ラッシュなのは何なの。クソだせぇな。

参考:大野真弓『イギリス絶対主義の権力構造』(東京大学出版会、1977年)386-387ページ。

訳文②(対応箇所の表記なし)

そして、その聖職就任資格と称号同様、この王国の荘厳なる王冠の元に編入し、統合された、前述の同教会の最高首長の地位に帰属し、所有される全ての栄誉、尊厳、優位性、支配権、特権、権威、免責、利益と財貨は、所有され、享受されなければならない。

翻訳⑸

原文

and that our said sovereign lord, his heirs and successors, kings of this realm, shall have full power and authority from time to time to visit, repress, redress, record, order, correct, restrain, and amend all such errors, heresies, abuses, offenses, contempts and enormities, whatsoever they be, which by any manner of spiritual authority or jurisdiction ought or may lawfully be reformed, repressed, ordered, redressed, corrected, restrained, or amended, most to the pleasure of Almighty God, the increase of virtue in Christ's religion, and for the conservation of the peace, unity, and tranquility of this realm;

単語集

redress=(間違い、差別などを)正す、是正する amend=(法律などを)改正する whatsoever=どんな〜でも lawfully=合法的な Almighty=全能の tranquility=静寂、平穏、落ち着き

訳文①(対応箇所の表記あり)

その上(and that)、先述した我々の主権ある大司教(our said sovereign lord)、彼の相続人と後継者たち(his heirs and successors)、この王国の王たち(kings of this realm)は、異端(heresies)、虐待(abuses)、犯罪(offenses)、侮辱(contempts)、そして重大な残虐行為(enormities)といった、全ての誤りを視察(visit)し、抑圧(repress)、是正(redress)し、記録(record)し、命令(order)し、修正(correct)し、抑制(restrain)し、そして正す(amend)ために、時に応じて(from time to time)、完全なる権力と権威(full power and authority)を持つものとする(shall have)。

それらが何であれ(whatsoever they be)、主として(most to。合ってる?)全能の神の喜び(the pleasure of Almighty God)やキリスト教における美徳の増加(the increase of virtue in Christ's religion)、そして、この王国の平和・連帯・平穏を守る(the conservation of the peace, unity, and tranquility of this realm)ために、ある種の(any manner of)精神的権威あるいは支配権(spiritual authority or jurisdiction)によって、合法的に(lawfully)改革され、抑圧され、命令され、是正され、修正され、抑制され、あるいは正されるべきか、そうされうる(ought or may)。

訳文②(対応箇所の表記なし)

その上、先述した我々の主権ある大司教、彼の相続人と後継者たち、この王国の王たちは、異端、虐待、犯罪、侮辱、そして重大な残虐行為といった、全ての誤りを視察し、抑圧し、是正し、記録し、命令し、修正し、抑制し、そして正すために、時に応じて、完全なる権力と権威を持つものとする。

それらが何であれ、主として全能の神の喜びやキリスト教における美徳の増加、そして、この王国の平和・連帯・平穏を守るために、ある種の精神的権威あるいは支配権によって、合法的に改革され、抑圧され、命令され、是正され、修正され、抑制され、あるいは正されるべきか、そうされうる。

翻訳⑹

原文

any usage, foreign land, foreign authority, prescription, or any other thing or things to the contrary hereof notwithstanding.

単語集

usage=慣習、しきたり prescription=正当だと考えられる権利 hereof=これに関して notwithstanding=にもかかわらず

訳文①(対応箇所の表記あり)

あらゆる慣習(any usage)、外国の土地(foreign land)、国外の権威(foreign authority)、古くからの正当と思われる権利(prescription)、もしくはこれに反する他のいかなるもの(or any other thing or things to the contrary hereof)にも、拘束されない(notwithstanding。「上記の権利が」ということか)。

"notwithstanding"をどう訳せば良いのか分からなかったので、先述の本をカンニングしました(2回目)。

直訳すると「〜にもかかわらず」となりますが、文章の最後の最後が「かかわらず。」だと、どう考えてもおかしいからね。

イギリス国外に、あらゆる慣習、土地(=富と権力の基盤)、権威、代々の権利などがあるにもかかわらず(それらは、もはやイギリスを拘束しない)……ってことなんですかね。しらんけど。

参考:大野真弓『イギリス絶対主義の権力構造』(東京大学出版会、1977年)387ページ。

訳文②(対応箇所の表記なし)

あらゆる慣習、外国の土地、国外の権威、古くからの正当と思われる権利、もしくはこれに反する他のいかなるものにも、拘束されない。

全部つなげてみる

国王陛下は、当然のことながら正当かつ合法的に、イギリス国教会の最高位の首長であり、また、そうあるべきでもある。
そして、このことは、この王国の聖職者たちが、聖職者会議において公認しているところでもある。

しかし、それにもかかわらず、その確認と裏付けのために、また、このイングランド王国内のキリスト教における美徳の増加のため、更に、今まで行われてきたのと同様な全ての過ち、異端、そしてその他の残虐非道な行為と悪習を抑制し、根絶するため、現在のこの議会の権限によって、法制化される。

国王、独立した主権を有する主教、彼の相続人と後継者たち、この王国の王たちは、「アングリア人の教会」と呼ばれるイングランド国教会の、地上で唯一の最高位の首長であると理解され、公認され、広く評価されなければならない。

そして、その聖職就任資格と称号同様、この王国の荘厳なる王冠の元に編入し、統合された、前述の同教会の最高首長の地位に帰属し、所有される全ての栄誉、尊厳、優位性、支配権、特権、権威、免責、利益と財貨は、所有され、享受されなければならない。

その上、先述した我々の主権ある大司教、彼の相続人と後継者たち、この王国の王たちは、異端、虐待、犯罪、侮辱、そして重大な残虐行為といった、全ての誤りを視察し、抑圧し、是正し、記録し、命令し、修正し、抑制し、そして正すために、時に応じて、完全なる権力と権威を持つものとする。

それらが何であれ、主として全能の神の喜びやキリスト教における美徳の増加、そして、この王国の平和・連帯・平穏を守るために、ある種の精神的権威あるいは支配権によって、合法的に改革され、抑圧され、命令され、是正され、修正され、抑制され、あるいは正されるべきか、そうされうる。

あらゆる慣習、外国の土地、国外の権威、古くからの正当と思われる権利、もしくはこれに反する他のいかなるものにも、上記の国王の権力は拘束されない。

全部つなげて接続部をいい感じにしました!

どういうこと??

ざっくり言うと、イングランドのキリスト教における国王の首位を主張しているっぽい。

特に最後の行に顕著だ。
外国勢力(ローマ教皇、神聖ローマ皇帝など)への威嚇が垣間見える。

この辺りの主権意識の発生について考えるには、中世におけるペストの大流行と教皇権の失墜などについても見る必要があるかもしれない。

一方、教会が絡まない世俗の権利については、あまり言及されていない。

かの有名な"the imperial crown"の言い回しが登場する文脈からしても、イギリス帝国の萌芽をこの時点に見るのは無理があるかも。
ここでは、教会の首長に帰属するものの話をしているしね。

俗界における君主主権を言い出すのは、エリザベス1世の国王至上法(1559年)らしいんだけど、彼女の国王至上法は、これとは比較にならないほどクソ長いので、また今度見ることにする。

参考文献

  • 安東伸介編『イギリスの生活と文化事典』(研究社出版、1982年)

  • 大野真弓『イギリス絶対主義の権力構造』(東京大学出版会、1977年)

  • 「クリア・レギス」『世界大百科事典』Japan Knowledge Lib

これから参考にしたい人々(メモ)

  • 近藤和彦

  • 後藤はる美

お疲れ様でした!!

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