夏の終わりは希望の光
「あー、うるさい」
今年はセミの鳴き声がやたらと耳に入る。
聞こえてくるから聞いてしまうのだけど、そのままボーッと聞いていると耳元にセミがいるかのような大きな音が耳に障る。
だいぶ掃除をしていないエアコンは暑さを和らげる働きがお手伝い程度のものになってしまっている。
涼しくなりきれていない部屋に響くセミの鳴き声は、私をイラつかせるのに充分な力があった。
もうすぐ夏も終わる。
この時期になるとフラッシュバックのように思い出す。
あの頃の私は今のように笑うことができていなかった。笑うことを忘れてしまっていたんだ。
*
やんわりと冷たさを感じる床に頬をピタリとくっつけて、机の上から滑り落ちただろうノートを眺めている。
「宿題、か」
やろうとしていただろう宿題。それすらもどうでもよくなるほどに無気力の塊になっていた。
昨日の夜、気が狂うほどに泣いて、苦しくて苦しくて、カッターで自分を傷つけた。
当たり前に出てくる血液を見て触れて、そこでやっと呼吸をした。
脳内を突き抜ける感覚。心が潰されそうなくらいになっていた苦しみも、口から吐き出してしまいたい感情も、すべてがこの行動によって解放される。
辛くて辛くて、自分ではどうにも出来なくなってしまったときにこの解放を求めてしまっていた。
その代償はその後しばらくの無気力。
それは苦しい無気力ではなくて、安堵からくる無気力。
今がそれ。
少し温まってしまった床の、冷たい場所を探して移動する。ほんの数センチ。
またほんのり冷たい感じを感じながら無気力な身体そのままウトウトする。
居場所のない家の中でひたすらに耐える夏休みという時間は地獄と呼んでもいいような気がしていた。
もう何年この苦しみを耐えてきているだろう。
「私」という存在は自分が認識できるものではなくて、親の作り上げた「私」なだけでそこに自分は存在しない。
自分を偽り笑顔を作り、求められた返事をして、求められた行動をする。もはや、人である必要はないかとすら思える。
それを日々繰り返し、ただ生きてる。
「わっっ!」
ビックリして飛び起きた。セミが耳元にまできた、かのような鳴き声が今聞こえた。
少し心臓がバクバクする。右手を胸に当てて深呼吸をして落ち着かせてみる。
まだ途中の宿題のノートを鞄にしまって、クローゼットにかけてあった制服を出した。
そう、今日は8月31日。明日から学校が始まる。
この苦しい時間から精神だけでなく身体も解放される。待ちわびていたこの日。
今夜はカッターを出さなくても眠れるだろう。
*
今ではカッターで傷をつけることはしなくなった。その代わり睡眠を削ったりの内部を痛めつける自傷はやめられないでいる。良いのか悪いのかはわからないが、それで均等が保たれているのだから仕方ない。
やっぱり暑いな、この部屋は。
セミの鳴き声がさらにうるさい。
エアコンの掃除でもしようかな。
今日は8月31日。
今もなぜか心が軽くなる日。
夏の終わりが近づく日。
今夜は自分を傷つけることなく、ゆっくり眠ろう。
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写真お借りしました♡︎
ありがとうございます(ㅅ´ ˘ `)☆*。
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